出版社内容情報
キリスト教が仮借ない非寛容性をもってヨーロッパを席巻していったとき,大陸古来の民間信仰はいかなる変容をしいられたか.今から一世紀以上も前,歴史の暗部ともよぶべきこのテーマに早くも着目したハイネは,これら二篇のエッセーでギリシアの神々と古代ゲルマンの民族神たちの「その後」を限りない共感をこめて描いている.
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
拓也 ◆mOrYeBoQbw
32
説話・古詩集。ドイツロマン派の代表詩人ハイネによるドイツ北欧のゲルマン系妖精伝承と、ギリシア・ローマ神の伝承を蒐集した作品ですね。敬虔なカトリックによって異端化&排除された古代の神々ですが、ハイネは寧ろカトリック批判&形を変えながら信仰が根付いてる事を描き出す、20世紀のグノーシス再評価に近い作品になってます。特にフレイザー『金枝篇』や、ボルヘス文学にも共通する点は多いと思います。あとは引用される神、悪魔、妖精の物語は非常に耽美、ワーグナーの『タンホイザー』『ローエングリン』の原型も見られますよ~~2017/12/02
加納恭史
21
メーテルリンクの「青い鳥」を楽しんだ後、メルヘンの物語は他にないかと思っていたら、ハイネのこの本が目にとまる。羽衣伝説で有名な日本の謡曲「羽衣」と一味違ったゲルマンの伝説があり、なかなか面白いと思った。「精霊物語」と「流刑の神々」のテーマは同じことを言う、「古代の自然信仰を悪魔(サタン)への奉仕であると作りかえ、異教の勤行を魔術に作りかえること、神々の悪魔化」。まあこのキリスト教の非寛容性の反対に、民衆の間の信仰された小人や妖精から話は始まる。まあ民衆信仰が民俗学の基本。柳田国男も日本人にピッタリと言う。2023/04/10
双海(ふたみ)
14
キリスト教がヨーロッパに滲透し、その非寛容性をもって古来の信仰を邪教として抹殺していった様子を描く…。2014/01/14
三柴ゆよし
12
「キリストの勝利によって権力の絶頂からたたきおとされ、今や地上の古い神殿の廃墟や魔法の森の暗闇のなかで暮らしをたてている精霊たち」によせる同情的なまなざし。若き詩人であった柳田國男は、こうしたハイネの思想にいたく共感したという。日本民俗学はドイツのフォルクスクンデを継承しながら独自の発達を遂げていった学問であって、それゆえ柳田初期の仕事においては、口承文芸へ向ける関心が非常につよい。ハイネやグリム兄弟の著作から日本民俗学へいたる軌跡を描きつつ読む。なかなか勉強になった。やはり原典を読まねば駄目だね。2010/08/12
ダイキ
11
キリスト教徒によって虐げられた神々や妖精などの話。これは良い本だった。若き日の柳田國男も、『流刑の神々』を読んで感銘を受け、後の大偉業を成す一つのきっかけとなったとのこと。「喜ぶがいい、迷信の可哀想な生贄として葬られたお前達の先祖の血は報復されたぞ!だが根深い遺恨などにとりつかれていない私達は、偉大なる者の落ちぶれた姿を見ると心から感動させられ、それに対して敬虔なる同情の念を捧げるのだ。この情のもろさゆえに、私達の物語には、歴史記述者の誉である冷たい生真面目な調子がつかないですんだのだろう。」2015/08/21