内容説明
母をめぐる父との熾烈な争い、葬儀に届いた赤い花輪の謎、過去を抱えた女に誘惑される風来坊…。戦争の影漂うアイルランドを舞台に、人々の日常に芽生える物語を、ユーモラスに、ミステリアスに描く、短篇の名手オコナー(1903‐66)。滋味溢れる一一篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
112
アイルランド人作家の短編選集。著者の名を冠した国際短編賞があり、村上春樹などが受賞するなど時々その名前を目にするので気になっていた作家さん。11篇の作品はどれも味わい深い。家族などの人間関係や生活に馴染んだ敬虔なカトリックの姿、内戦など様々なテーマを内包しており、平易ながらも情感を込めた文章で綴られていた。時折描かれる情景も良いが、特に人物の描き方が好み。歴史や風土が染み付いた気質がじんわりと滲み出てくるように人間臭く、時には愛敬をもって、時には慈愛に満ちた文章で描かれている。著者の作品をもっと読みたい。2020/08/19
(haro-n)
75
アイルランドの自然の美しさとそこに生活する人々の心の機微・ユーモアが作品全体に散りばめられていました。カトリックの赦しに関する理解が必要なところがあります。しかし、主たる面白さは、セリフの一つ一つからその人の表情やしぐさまではっきりイメージできるほどリアリティがあることです。又、アイルランドのきらめく陽射しや雨粒や霧や海の反射、芝生や樹木の柔らかい緑、広がる湿地や緩やかな丘の連なりや黒々した岩肌等、天気の崩れやすい土地ならではの、息を飲む程の美しい自然の瞬間をとらえている点も大きな魅力です。訳が良いです。2019/02/02
藤月はな(灯れ松明の火)
56
大学の図書館で興味で借りた際、後輩のF君から「フランク・オコナーは超お勧めっすよ」と推薦された本。国教会のイギリスに支配される歴史を有し、独立を目指すアイルランドのどこか灰色がかった色彩風景と人々の心の機微や郷愁が目に浮かぶ作品集。孤独、寂しさ、苛立ち、絶望、ぬくもり、そして優しさがカフェオレのように調和して醸し出す。『国賓』で胸が締め付けられ、『はじめての懺悔』のオチでニヤリとし、ブラックな『ある所に寂しげな家がありまして』に戦慄が走ります。2013/11/11
ペグ
40
同じオコナーでフランクとフラナリーって間違えそうでややこしいですが。フランク・オコナーの作品は周りの景色と普通の人々が生き生きと描かれていて目に浮かぶようです。特に男の子が主人公の(ぼくのエディプス・コンプレクス)(はじめての懺悔)等が好きでした。平明な言葉で描かれていて読みやすく、心に残る短編集でした^o^2016/06/10
miyu
26
トレヴァーがらみで読み始めたがピリッと辛口の短編集だった。母親が30代後半で生まれたオコナーは一人っ子で、確かにシニカルな視線がそれらしい。結末に救いを求めるでもなく淡々としているが、余韻があるせいか後味は悪くない(苦いけど)。個人的に最も好みなのは「マイケルの妻」、そして「あるところに寂しげな家がありまして」「ルーシー家の人々」などか。「法は何にも勝る」のラストも好き。とにかくみんな頑固よね(笑)不器用なほど。アイルランドの歴史を知っていた方が、より味わい深い短編集だ。その意味でも訳者の解説が秀逸だ。2014/08/20