内容説明
テニスンとともに英国ヴィクトリア朝を代表する詩人ロバート・ブラウニング(1812‐1889)。上田敏の訳詩集『海潮音』(1905年)に収められた短詩「春の朝」の最終行“すべて世は事も無し”はとりわけ名高い。“劇的独白”と呼ばれる独自の表現形式で人間心理の機微を巧みにあらわし、新境地を開いた詩人の代表作40篇を収録。
目次
ポーフィリアの恋人
クリスティーナ
『ピパが通る』より
枢機卿と犬
ハーメルンの笛吹き男
先の侯爵夫人
実験室
酒のお国柄
異国より故国を思う
海上より故国を思う〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
lily
98
永遠の真実、たった一つの素晴らしい真実は一人の女が私の額に口づけの追憶のみだったなんて!どんな高雅な精神の交わりなのだろう!協和音の世界しか知らないような詩人の到達点をみた興奮を鎮める方法に迷ってしまうな。2020/11/25
新地学@児童書病発動中
67
ビクトリア朝を代表する詩人ロバート・ブラウニングの詩集。詩の登場人物が自分の胸の内を語る劇的独白と呼ばれる手法が効果的で、人間の内面を鋭くえぐり出していく。詩というよりリズミカルな劇のせりふと言ったものが多い。感傷性や詠嘆に陥らないのでさっぱりとした味わいがある。ブラウニングは多くの詩人のように世捨て人にならず生を謳歌する人だったようで詩にもそれが表れていた。2013/07/15
shinano
15
ラファエロ前派の芸術文学家諸氏からのブラウニング詩は尊敬度が高く、そのラファエロ前派の美的芸術的感性に感銘したハーンさんや漱石先生の口からの言葉から、近代西洋文化の感受の流れを教わった明治後期の帝大若者たち。作品がひとをかいして伝わる現象での高貴さのようなものを、ブラウニング読後に思う、ジンと★ ドン★と2020/06/19
歩月るな
8
経済的、物質的に恵まれていた典型的ヴィクトリア朝中産階級として産まれたブラウニングは、まさに他の詩人たちの呪われたかのような人生の足跡とは無縁であり、後に並べられるテニスンからもその作品は酷評されていた。「すべて世は事も無し」の二行の持つイメージこそヴィクトリア朝人の悠然とした能天気なほどの楽天主義の結晶として、独特の地位を持っている。が、シェイクスピアから連なる「劇的独白」を操ったその詩行と、彼自身の私生活は二面性を持ちチェスタトンやヘンリー・ジェイムズにすら奇妙に映るほど「普通」だった。そこが肝心要。2018/03/29
よめしま
5
好きな詩集。劇的独白の技法、日常会話のリズムを取り込んだとある通りとても読みやすく感じた。「貪欲なまでにさまざまの人間に強い興味をもちつづける」ブラウニングの姿勢や人柄がにじみ出る作品ばかり。他の詩も読んでみたい。2014/03/10