内容説明
評決は死刑と出た。ソクラテスの平静と巷の波紋。弟子の奔走も空しく刑執行の日が来る。告発人は、黒幕は?よそ者は、奴隷は?娼婦は、巫女は?古代アテナイ市民と社会、裁判を描く絵巻は、われわれの生きる現代にかぎりなく迫る。
著者等紹介
小田実[オダマコト]
1932年大阪市生まれ。作家。1957年東大文学部言語学科卒。1981年『HIROSHIMA』出版。同作品で1988年AA作家会議ロータス賞受賞。1992年秋、NY州立大学客員(~94)。1997年短篇「アボジを踏む」が川端康成文学賞受賞。2007年死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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NAO
43
自由気儘に自説を吹聴するソクラテスを衰退するアテナイの象徴と見た者たちによる、ソクラテス裁判。倦怠感に包まれたアテナイに変化をもたらすはずと期待された裁判だったが、市民たちには何の効果もなく、アテナイは全く変わらない。衰退に向かう国では、大衆は先を見据えることなくただ浮かれ騒ぐだけ。その様が、今の日本と似ているようで怖い。大衆の猥雑さと、陰で暗躍する者たちの毒々しさ。彼らと死んでいくソクラテスの静謐さの、なんと違っていることか。だが、そのどちらもが、大地を父に星輝く天を母に持つ、人間の姿なのだ。 2016/05/17
M.kaori☂️☂️☂️🌻🌻🌻☁️☁️☁️🍒🍊🪶🍍
3
軽いな。でも。軽い単細胞ってきっとこんな感じ。喧嘩もスケベも軽いというか。ちょっと笑える(*´ω`*)2021/02/24
こうず
3
哲学者ソクラテスを人民はどう裁いたか。数十人もの種々様々な職業の人々が登場する群像劇であり、固定された「主人公」が存在しない。しかし、それは同時に、登場する全てのキャラクターに対して主人公としての性質が付与されているという事でもあろう。民主主義化にあっては、投票権を持つ全ての人々が「主人公」に成り得るが、どうしようもない衆愚の色を纏い始める事をも意味している。ソクラテスを裁いて後にそれぞれの日常へと彼らは回帰したのであるが、彼らの姿は現代人である我々と、実はそれほど様相を異にしてはいないはずである。2009/12/29
ラウリスタ~
2
非常に興味深い小説でした。そっかこの人は根っからの小説家なんだ。中学生のころから本格的に小説を書き始めたとは・・・早熟の天才だったんですね、うらやましい。筆者の小説観が面白い。主人公の心情というよりも人々の人間関係やらわけの分からない流れに押し流される人々の姿が中心。2010/09/17
壱萬弐仟縁
1
「直感が捉えた事実と経験を連想の曲線でつないで行くことで世界の構造を探る思考」(398ページ解説)。カリクレスは、親孝行で腐敗も堕落もしなかったみごとな息子(54ページ)だ、と。なかなかそういう子育てはできないだろうな。「人間はだな、自分で不幸を自覚したとき、はじめて不幸になる」(128ページ)。このところ、幸せ志向が増えてきたが、不幸もコインの裏表。いつ逆転するかしれない。苦痛と快楽は絡み合っているとの台詞も意味深か(338ページ)。矛盾していることが同時発生すると、人間はどう反応したらいいか、戸惑う。2012/12/18