出版社内容情報
木曽馬籠の里を舞台に明治維新の或る側面を描いた歴史小説である.主人公青山半蔵は,代々本陣・庄屋・問屋の三役を兼ねる旧家の跡継ぎ息子.山深い木曽路にも黒船来航の噂が伝わり,旅人の気配ただならぬ頃から物語は始まる.藤村は,維新の下積みとなって働いた人々を描くことを意図してこの大作を書いた. (解説 猪野謙二)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
47
完結編。大感動というよりか、人生と歴史にしみじみと思いを馳せるずしりと来る長編だった。歴史の中の人間を大らかに謳い上げた「戦争と平和」に唯一不満があるとしたら、暖かい家庭の場面で終わり主人公たちの最期まで描かれなかったことだが、本作は主人公の半蔵の埋葬の場面がクライマックス。56才という志半ばの悶死。幕末と維新を半分ずつ生きたその人生は、この日本の希望と挫折の歴史に重なる。維新後の馬籠宿というイエの崩壊の中で山林問題など地域民のために奔走するも挫折。教師、神官と次々と試みるが維新の皮相的な欧化・強圧の歴↓2016/10/25
ころこ
40
江戸の多吉夫婦の暮らしに社会の変化を語らせて、冗長の印象があった前半が効いてくる。「東京まで半蔵が動いて見ると、昔気質の多吉の家ではまだ行燈だが、近所ではすでにランプを使っているところがある。」維新までは王政復古が、維新後は近代化・西洋化によって王政復古の思想的裏付けだった国学が顧みられなくなったというイデオロギーの問題として解釈することはできる。しかし、これをロシア文学と比較してみるとどうだろうか。意識が外に向くか内に向くかの違いで、半蔵の行動は直訴(屈折した心情の表明)ではなく、テロになるだろう。娘お2023/05/03
きいち
30
これぞ小説、本当におもしろかった。本好き自認するクセに、よくも今まで読まずにいたな自分!と思った、『神聖喜劇』の時と同じだ。◇幕末維新のこの時代、主人公半蔵は決してオロオロするばかりの大衆でもなければ柳に風と受け流す趣味人でもなく、主体的に新たな世の中作りに関わろうとする存在。その仕事は決して無に終わったわけではなく、次世代作りという役割をしっかりと果たしている。藤村もだから、悲劇としては描かない。まるで苦悶もまた個性であるかのように。◇だからこそ、日本中に幾万もの半蔵、幾万ものお民の存在があると思える。2015/03/23
寝落ち6段
12
無力感。国学による理想の日本人古来の国づくりを夢見て、奔走した半蔵。だが、明治維新は欧米化だったのである。富国強兵の国家主義の中、旧家として村の代表となり、村民の生活の為に訴えるも斥けられる。重ねて、娘の自殺未遂、代々の土地を手放し、嘗ての仲間たちとの別れ、変わる村、都会化する東京。一体自分は何ができるのか。理想と現実に殴殺された半蔵。嘗て、江戸の庶民は何を支えにしているのかと考えた時、それは親子だ、地域の絆だと考えたではないか。半蔵は何を心の支えにしたのか。足元を見ないから躓いてしまうのではないか。2021/02/02
Masakazu Fujino
11
明治維新とはいったい何だったのか?島崎藤村は問いかける。青山半蔵の姿を描きながら…。 大変な名作だった。また、しばらくしたら、もう一度読み直したい。2021/12/10