内容説明
二〇世紀の大学は研究機能を充実させ、社会における知識生産の最大の拠点として、ドイツからアメリカへとそのモデルを変えながら発展してきた。そして現在、経済活動と強く結びつく研究に莫大な資金が投入される一方で、伝統的な人文社会科学は、その社会的意義の模索を迫られている。研究をめぐる競争的環境や知的財産権のゆくえ、研究の自由と規制、現代の「文理の壁」問題など、大学の生み出す“知”の歴史的変貌について考察し、大学という存在の「再定義」を試みる。
目次
序論 知の変貌と大学の公共性
1 研究をめぐる競争的環境
2 研究成果の公共性と私的権利
3 社会の中の研究―自由・倫理・ガバナンス
4 文系と理系の間―文理の壁の克服とその課題
5 人文学の使命―スローサイエンスの行方
著者等紹介
小林傳司[コバヤシタダシ]
1954年生まれ。大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授。科学技術論、科学哲学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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金吾
17
大学の研究の意味や現状が少し見えました。「研究成果の公共性と私的権利」は興味深い内容であり面白かったです。2022/07/29
Moloko
2
研究する大学というテーマではあるが、競争的研究資金に関する論考や、アメリカの大学の研究と知財の関係の歴史や、ELSIと社会のための研究について議論や、日本での文系と理系の比較と連携の模索や、人文学の存在意義を主張したものがあった。市場化と文理の壁の溶解と領域横断的な協力は不可避であるし、問題提起だけではなくて大学が社会的な意義を果たせるようになるための仕組みが必要だと思う。倫理性を無視した経済的合理性を各アクターが取ることには弊害が大きいし、市場で供給されえない規範を大学は学問の形で提供してきたのは重要だ2017/07/17
Ishida Satoshi
0
読了。大学の研究をめぐる市場化、競争的環境、研究成果の公共性と私的権利化など、今日のグローバル化の中で経済活動と強く結びつく研究へ莫大な投資が行なわれる一方で、数値化、定量化しにくい伝統的な人文社会会科学分野はその社会的意義の模索を迫らています。本書は不可逆的な市場化と大学研究の関係性を複数の論者が議論したもの。大学研究の市場化、研究成果の社会への還元を促した米国バイドール法の解説はわかりやすく整理されています。研究の自由と規制、倫理的配慮、現代における文理の格差、新学部設置に代表される文理融合教育・研究
fantamys
0
大学において「研究する」ということの意味、現状、展望。2015/04/29