出版社内容情報
著者の基本モチーフの一つである「生の社会学」、「実存の社会学」の書。人々の愛や孤独、野望、歓喜、絶望がおりなす総体のダイナミズムとして社会を捉え、表現しようとする試みを具体的に展開し、未来への展望につなげる。収録作品:「まなざしの地獄」、「新しい望郷の歌」、「花と球根」、「夢の時代と虚構の時代」、「愛の変容/自我の変容」、「愛の散開/自我の散開」、「近代の矛盾の「解凍」」
内容説明
「見田社会学」と称される独自の世界を創造した著者が、自身の全仕事を振り返り、重要な作品だけを精選してその精髄を体系的に示す。統計資料などは最新データに更新、テクストに改訂を加えた上、「定本解題」を収録する、初にして待望の決定版著作集。
目次
まなざしの地獄―尽きなく生きることの社会学
新しい望郷の歌
花と球根―実存とベストセラーの間
夢の時代と虚構の時代
愛の変容／自我の変容
愛の散開／自我の散開
近代の矛盾の「解凍」―脱高度成長期の精神変容
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Shin
4
永山則夫について書かれた「まなざしの地獄」は初読だったのだが、鮮烈だった。田舎から東京へ向かう青年の心に、深く根ざしてしまっていた故郷や家族への陰惨な恨みと、その裏返しとしての哀しき期待。私自身の中にも、相似形の心象風景が（既にセピア色になってはいても）残っているようで、読んでいて息苦しかった。著者も注釈するように、事件史としては一面的に過ぎるのだろうが、その事件を生みだした社会の、絶望的に逃れ難い疎外の連鎖は、集団就職のようなものが無くなった現代においてもなお、形を変えて青年たちを絡めとって離さない。2012/04/24
朝野まど
3
この人には生涯敵わない、そう思った。そして、この人に生涯学んでいこう、そうも思った。そんな鮮烈な本。論文に「まなざしの地獄」というタイトルが付けられているように、見田さんは近代社会のある側面を”地獄”と言う。だがそれは重々しい諦念や軽々しい断罪いった香りを全く匂わせない。学問という足で”地獄”を巡り、感情という眼で”地獄”をみて、その身に一心に”地獄”の圧倒的残酷さを感じてもなお生きようとする。”地獄”の解決や解放を唱えているわけではない。ただ、尽くして生きようとするのだ。愛の結晶のような見田さんの学問。2013/02/15
ゆうき
2
１９４５年から６０年までを「理想の時代」、６０年から７５年を「夢の時代」そして７５年からを「虚構の時代」と区分した。農村解体と若者の労働力としての都市への流入で都市での人々の眼差し、自己の眼差しによる地獄、自己の存在の危機、家族という夢を実現したがそれも家族を演じなければという役割分担をしていていただけであった。虚構の時代にネットアイドルだった女子高生は卒業式の前日にカラオケでリストカットをして自殺した。他者が直接介在できないネットとカラオケボックスが彼女の安らぎの場所であり始まりと終わりの場所であった。2014/12/07
いまにえる
1
まなざしの地獄を読むのは2回目だが、N.Nがぶつかった様々な不条理や強いられてきた行動を具に見ていくと、死刑のような刑が個人の責任があるから、と言う形で処せられることの不可能さを感じる。同時に、社会学はこのような問題を分析するだけでは足らず、解決への方策を探る必要がある、それが生きることとしての社会学なのだと思う。「これはN.Nのことではない、われわれのことだ」夢の時代と虚構の時代も面白かった。その後の時代は拡張現実の時代とも名付けられるだろう。2018/04/01
あるある探検隊
1
まなざしの地獄では家郷/都市/近代/階級の側面から一人の殺人犯＝被害者を分析している。彼はＮ．Ｎと呼ばれ、本名は出されずに見田は話を展開するが、それは一般的次元としての近代社会の病理を描くためであろう。家郷の喪失。外部への飽くなき憧憬。しかし人はその存在拘束性から本質的に逃れることはできず、他者のまなざしに怯えつつ、表面的に都市に埋没していく。都市での精神的/経済的充足を得ながら、、、 我々は埋没した世代のこども世代である。我々はいかなる生/死/愛/孤独を生きるのだろうか？2012/06/18
