内容説明
若き日に科挙を目指すも果たせず、のちには中央政界の思惑とあいつぐ戦乱に翻弄された杜甫の境涯は、まさに「憂愁」と形容するにふさわしい。しかし彼は、しばしば挫折と流浪を経験しながらも、いやそれゆえにこそ、厳しい現実と常に対峙し、自己をとりまく家族、友、社会、そして自然に温かいまなざしを注ぎつづけた。その強靱な精神こそが、「詩聖」を誕生させたのである。中国詩史のなかの杜甫の位置を丁寧におさえたうえで、その生涯を辿りながら詩の魅力を存分に味わう。待望の新「杜甫詩選」。
目次
第1部 書物の旅路―杜甫に到る道(中国詩史の中の杜甫;杜甫の今体詩;杜甫の古体詩)
第2部 作品世界を続む―杜甫の詩境を探って(酔っぱらい賛歌;戦争はむごいなあ;戦乱の中で―離別と再会;曲江のほとりで;流浪の始まり―秦州・同谷から成都へ;李白よ;成都草堂の平安;旅路の果てに…)
著者等紹介
興膳宏[コウゼンヒロシ]
1936年、福岡県生まれ。1966年、京都大学大学院博士課程修了。京都大学教授、京都国立博物館長を経て、京都大学名誉教授。中国文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
27
あまり杜甫自体についての記述は少なく、杜甫の作品につての論述が多いのはありがたいことです。まあ実際には杜甫の作品を鑑賞するとともに彼の人生をなぞっているのですから、杜甫の人間というものも自然にわかるようになっています。高校時代の漢文と受験くらいでしか触れていないのですがこれだけ多くの漢詩を鑑賞させてくれると楽しくなります。2014/11/08
元気伊勢子
6
高校で漢文に多少触れた程度。モヤモヤしていたので丁度良かった。漢字が並んでいるのを見ると落ち着くという程度で学術的なことは、さっぱり分からない。2023/02/16
たけはる
5
杜甫のさまざまな側面から見た魅力を、たっぷり伝えてくれる一冊。そしてやはり頭いい人って文章わかりやすいな……すげえな……。本書を読んでいたらもっと杜甫を読みたくなります。お恥ずかしながら(唐詩をやっていたというのに、まったくお恥ずかしい!)、私は杜甫をほとんど読んだことがなく。なのでよく言われる「憂愁の詩人」ていうイメージばかりが先行して、なんとなくおとなしげな人だな~と思ってたんですが、案外この人そうでもない。意外に行動派だし、→2018/03/10
佐藤丈宗
3
杜甫の偉大さとは何か? その作品の完成度や文学性のみならず。この本のユニークさは漢詩の歴史上で、杜甫という詩人が果たした役割を位置付けようと試みているところである。陶淵明の遺風を継ぎ、自らの詩風を磨き続け、後世に繋がる詩のカタチを遺した。詩自体に関して李白と優劣を論じることは難しいが、漢詩史上で杜甫が演じた役割の大きさをみれば、彼が「詩聖」と称されるのも大いに首肯できる。しかし、この本で最後に扱われている「小寒食舟中作」という詩の「愁看直北是長安」という句。この本を読めばわかるが思わず泣きそうになった。2017/07/20