出版社内容情報
性による不平等の是正だけが,フェミニズムの火急の課題なのか.男女という性差のカテゴリー自体の虚構性と,その2項を自明として稼働する現代社会に潜むイデオロギーを明らかにし,フェミニズムの新たな可能性を考える.
内容説明
性による不平等の是正は、フェミニズムにとっての喫緊の要件である。だが、性差のカテゴリーを前提とした議論は、逆に男女の非対称性を強化し、様々な反動を生み出している。性差のカテゴリー自体の虚構性と、その二項を自明として稼動する現代社会にひそむイデオロギーを暴露することから、フェミニズムの新たな可能性を考える。
目次
1 どこから来て、そしてどこまで来たのか
2 どこへ行くのか(身体;慣習;グローバル化)
3 基本文献案内
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しゅん
18
フェミニズムの思想における対立や差異が、歴史的かつ理論的に描かれている。同性愛をめぐる対立はもちろんのこと、同性愛者であるが故に男性社会に適応する例(映画監督ドロシー・アーズナーを具体例としてあげている)なども出てくる。日本に比べて欧米では精神分析から議論を始めていることが圧倒的に多く、フロイトやラカンを巡るフェミニズム議論が細かく紹介されているのが、本書の面白いところ。もちろんその議論は入り組んでいてややこしいので、喉の通りがいいわかりやすい入門書とは異なった趣を持っている。2023/01/24
またの名
16
意識高い系のハリポタ女優が過度に規制を求めてくるフェミニズムの誤りを戒めた事例が示すように、一枚岩ではあり得ない多義性を抱えた思想の紹介。ラカン派の箴言「女なるものは存在しない。それぞれの女たちがいる」をもじるなら「フェミニズムなるものは存在しない。それぞれのフェミニズムがある」とでも言うべき状況は、とくに著者が学ぶバトラーなどのポスモダ系の複雑な議論から分かる。白人も黒人もアジア人もいて労働者だったりバリキャリだったり異性愛者に属さなかったりする差異を女という同一性では括れないとの自覚が、まずは出発点。2017/05/29
Ecriture
13
初学者が最初の1冊に選ぶにはやや難しいかもしれないが、フェミニズム史を概観し、その発展と今後の課題をおさえる上で有益。女の解放を意図しつつも、「女の解放」という思考的枠組みそのものを問題化し、フェミニズムを現在女に位置づけられている者以外に開いていくことが必要であると説く。ゲイ・レズビアン・男たちが、フェミニズムと交錯する形でどう論じられてきたかにもページが割かれている。長野オリンピックでの蝶々夫人のパフォーマンスはなぜダメなのかといった具体例を用いた説明もわかりやすい。2016/04/06
erierif
12
me too運動、snsの発達によりハラスメントの告発が容易になった事などから女性である事に疑問を持ち色々な本を探していたところ、こちらがフェミニズムについて知りたかった事をバランス良くクリアな文体で書かれていたので読んだ。別な機会で勉強した時、フェミニズムと一緒に精神分析(主にフロイト)、ポストコロニアル、マルクス主義がセットで紹介されていた。フロイトによりエディプスコンプレックスやリビドーという性が精神や人の行動に与える影響について光が当てられその対として女性についての理解が深まった。(続2018/11/21
おでんのたまご
10
なぜ「ジェンダー」なのか。いつの間にか馴染んでしまった言葉なだけに、基本的なことを見落としていた。フェミニズムをきちんと勉強したわけではないので、こうやって体系的にまとまった本があるのがありがたい。さらに文献紹介をしてくれているのもありがたい。本当に何を読めばいいのかわからない状態なので…。以前購入したフェミニズム大辞典を開きながらちまちま読むのが楽しかった。2022/04/14