内容説明
自筆原稿・百名を超える関係者による追憶文・往復書簡など、膨大な伝記関係史料を使って、岩波書店創業者・岩波茂雄のリベラル・ナショナリストとしての生涯と、近代日本の出版文化の基礎を築いた出版人としての事績をたどる。吉田松陰を敬愛し河上肇訳『資本論』を公刊した岩波には、煩悶と愛国が同居していた。ナショナリストにしてリベラリスト、リベラリストにしてアジア主義者というある明治人による広角度の出版活動を、分裂ではなく統合の位相で捉える、書き下ろし評伝。岩波とその時代の風貌が鮮やかに甦る。
目次
第1章 煩悶と愛国(一八八一‐一九一三)(誕生;西郷隆盛と吉田松陰 ほか)
第2章 岩波書店創業(一九一三‐一九三〇)(古書店開業;夏目漱石『こゝろ』の出版 ほか)
第3章 リベラル・ナショナリズムとアジア主義(一九三〇‐一九三九)(時局への危機感;講座派の形成と発禁処分 ほか)
第4章 戦い(一九三九‐一九四六)(津田左右吉『支那思想と日本』;津田事件 ほか)
著者等紹介
中島岳志[ナカジマタケシ]
1975年大阪生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了、北海道大学大学院法学研究科准教授。政治学専攻。『中村屋のボース』(白水社、2005年)で大佛次郎論壇賞・アジア太平洋賞大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Willie the Wildcat
50
真摯な姿勢が、一高の縁である漱石から倉田、そして芥川の信頼に繋がる。『五箇条の御誓文』が哲学。新聞メディアの商業主義・軍国主義や治安維持法批判。挙句石原莞爾へ『奉天30年』を送付など、時勢にも曲げない一貫性が真骨頂。但し唯一、晩年の貴族院議員立候補に違和感。親友・藤村との出会いとその最期が、氏の人生への影響を多々感じる。「読書子に寄す」ですね!それにしても、本屋を営むことと自転車の練習・・・の件が読み取れない。これらはどのように繋がっているんだぁ~。(汗)2016/07/22
ばんだねいっぺい
29
純なところとまっすぐなところが根本にあったのかな。左右じゃなくて、思想の本質を見ていたし、ちゃんと算盤も弾いてたと思った。藤村操の華厳の滝。夏目漱石の「こころ」、芥川の遺言。関東大震災。滝川事件。遠くなりにけり。2021/03/21
おさむ
23
マルクスと吉田松陰、そして頭山満を出版したリベラル・ナショナリストという定義が興味深く、期待して読んだんですが、岩波書店の社史ですね。たくさんの要素を詰め込みすぎたために、評伝ではなく年表になってます。岩波発展の礎となった「こころ」を描いた夏目漱石との交流とかを書き込んだほうが面白かったのではないでしょうか?岩波文庫のモデルがドイツの「レクラム文庫」というのは知りませんでした。2015/05/22
壱萬弐仟縁
17
新刊棚。「岩波が心を寄せたのが内村鑑三だった。(略)内村に関心を抱いたのは、1900年8月の長野県上田での講演会がきっかけ」(35頁)。内村の「地人論」は池上先生からもブログを通じて教えていただいた。いつか読んでみたい。河上肇と『資本論』(102頁~)。1927年から岩波文庫で刊行開始。岩波も事業の失敗を経験している(108頁)。これに屈せず、今年創業100年。やはり、文庫や新書にはお世話になっている。ありがたい限り。月刊誌『世界』は病床にありながらも創刊(230頁~)。戦後1946年~。他に学ぶ謙虚さ。2013/12/20
やまやま
15
岩波茂雄と著者の信条は似通った部分があり、そのため著者が大変な好感をもって対象に迫っているので、若干暑苦しくも思えた。しかし、表現や学術の自由の実現を、まさに「現実主義的」に扱い、多く権力側にも味方を得たその実像は、出版という多くの人に知識を提供する生業への矜持があったからこそという著者の主張の一端は感じ取れたつもりである。1935年に外遊した時のドイツとソ連の印象が強烈であった。ドイツのユダヤ人迫害は愚かで陰に方向転換するのがよい、ソ連は実は資本主義で、社会主義論者はソ連に行けば転向するとつぶやく。2020/12/02