内容説明
身体・同性愛・青年運動・オカルト、そして戦争…20世紀初頭、スイス・ダヴォスに栄えたの療養所とはどのような施設だったのか。戦間期ドイツを代表するトーマス・マンの小説『魔の山』を新たな視角から読み解く意欲的な試み。
目次
序章 山へ
第1章 『魔の山』の地図
第2章 サナトリウムと身体文化
第3章 身体の位置
第4章 トーマス・マンと同性愛
第5章 『魔の山』のエローティク
第6章 男たちの秩序、マンとメナー
第7章 音楽の柩
第8章 戦争
結び 『魔の山』の根へ
著者等紹介
田村和彦[タムラカズヒコ]
1953年、長野県に生まれる。東京都立大学大学院修士課程(独語独文学)修了。現在、関西学院大学教授。専攻は20世紀ドイツ文学、主にトーマス・マン
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
黒猫グリ子
1
定期的に愛読書「魔の山」を再読する私にとって非常に楽しめる一冊。当時のサナトリウムの実情、マンと著書(同じく愛すべき「ベニスに死す」についての記述も嬉しい)と同性愛について、ユーゲント(青年)について、寝椅子(横臥療法)、タバコ、体温計、鉛筆…。作品を読んでいて印象に残る人物・言葉・場面、マン自身とその時代についてを、本著者の持論が突飛な方向へ行くこと無く納得のいく範囲で解説されていく。難解な用語も無く私のような無学な人間でも十分に楽しめるのが素晴らしい、多くの方に読んでもらいたい一冊。2016/03/06
山がち
0
読み物としてはそこそこ面白かったが、その学術的達成については私の方では完全に測りかねる。とにかくあの小説から私の思いもよらないテーマがいくつも汲み上げられている。同性愛は実際にトーマス・マンの言及があるということもありそれなりに首肯できるが、毛布にくるまれた身体を生殖器の象徴と見るような視点などには首肯できない。面白さでいうならば、音楽に関する論考が一番である。ハンス・カストルプがレコードに執着していることなどは私にとってはなんてことのない描写として見逃したが、菩提樹などと合わせて重要なテーマなのだろう。2014/01/28