感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
38
震災後8年目に出版された本の更に増補をした、10年目の記録です。震災によって政治一色になり、政治は単純化を加速させる。イメージされるのは可哀そうな被災者であり、危険な地域であり、食べたくない産地であり、気軽に遊びに行けない場所といったステレオタイプな言説です。著者は震災後に地元を発見しています。それはステレオタイプな言説に対して、いや、そうではないという当事者のアイデンティティとも違う。一旦離れた地元に戻ってきて生まれ育った人的関係も希薄だとはいえ、地元のことは熱く語ってしまいむしろ周囲からは当事者の代表2021/03/14
justdon'taskmewhatitwas
3
難渋した読書だった。福島県いわき市小名浜住まいが見たあの事故の復興ルポ。いちいち言葉が引っ掛かり、読みが捗らない。論の肝に「現実のリアリティ」が生むストレスがフィクションによって寛解される、とある。自分が"読書"に求めているのも同じこと。なのに、余すところなくノウハウを手に入れ、この先を見通したい、などと知らぬうちに「真面目」に考えていたからかも。先日TV放送されたローカルバラエティ『サクマ&ピース』もこの思想の上にある。2021/11/15
owlsoul
2
いわき市のアクティビストである著者は、福島県の復興を現場の視点で語りながらも、その「当事者性」から距離を取ろうと努める。本当の復興とは被災した人々が「被災者」でなくなること。だとすれば、当事者と部外者の境界線が強まるほどに真の復興は難しくなる。そして、風評被害払拭に終始する言説は震災以前の福島を置き去りにしてしまう。著者は、ある意味「いいかげん」な外部の人々を取り込むために、敷居が低く、なにより「楽しい」福島との関わり方を模索する。真の復興に大切なものは、未来へのビジョンを生む普遍的な「思想」ではないか。2022/03/06
mandaraderluste
2
震災をめぐる言説は、当時かなり話題になった開沼博『フクシマ論』が印象的だ。そこで自身の無知に気付かされたもののどこか釈然としなかったのは、原子力ムラというパワーワードが印象付ける福島観が、極めて一面的なものであるからだとようやく気付いた。未曾有の天災と人災は甚大な傷を残したが、そのために過去の歴史・物語がまるごと流され融解してしまったわけではない。復興事業はその傷を覆い隠すためかの地の歴史・物語ごと蓋をしてしまった。真っ当な復興とは、過去が堆積し、未来が生起するその場所で生きることだと本書は教えてくれる。2021/10/22
小泉
0
小森はるかの『二重のまち/交代地のうたを編む』を思い出す。アプローチの意欲に反して、若者たちの語りの弱々しさに伝承の難しさばかりを感じた作品だったが、その弱々しさにこそ意義があるような、だからこそ必要な野心的で誠意のある失敗作だったのかもしれないと、そんなことを思った。2021/09/15