内容説明
既知の素材を劇化しながらも斬新なクリュタイメストラ像を描出してみせる家庭内復讐劇『エレクトラ』第4篇を収録。
著者等紹介
丹下和彦[タンゲカズヒコ]
関西外国語大学教授、大阪市立大学名誉教授。1942年岡山市生まれ。1970年京都大学大学院文学研究科博士課程中退。2005年京都大学博士(文学)。和歌山県立医科大学教授、大阪市立大学教授を経て現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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roughfractus02
5
トロイア戦争を舞台とした女性たちの物語は、作者にとって愛憎と復讐をテーマとする人間の劇であり(「アンドロマケ」)、この戦争の悲劇の英雄アガメムノーンを巡る女性たちの物語は、神話や他の悲劇作品をパロディ的手法で強調される(「エレクトラ」)。神は、前者では個人を超えた犠牲的行為を称え、後者では大事な命(息子や娘)を失い、感情を行為に移す人間の罪深さを露わにする。観客は、戦争と男性による悲劇では英雄的崇高に誘われるが、戦争と女性による悲劇では人間的感情へと誘われる。後者を強調する作者は、無神論者だったとされる。2019/07/22
nightowl
1
パパ頼みな若き子供のいない正妻vs子供のいる愛人の争い「アンドロマケ」子供を亡くした老母は復讐に燃える「ヘカベ」戦勝国に残された自分たち敗戦国民の遺体を返してほしいと願う母親たち「嘆願する女たち」母より"女"を取った女性vs不遇な環境に鬱屈する娘「エレクトラ」粗筋をまとめると本当に中身が濃い。それでも重苦しさを感じないのは作者の手腕か訳者の手腕か。「エレクトラ」最後の、死ぬ運命にある中でも喜ぶすべを知っており災難に会(←原文ママ)っても打ち負けない者こそ幸せな生涯を送れると人生訓をさり気に混ぜるのが見事。2019/04/21