内容説明
日清・日露戦争に衝撃を受けた中国知識人は、国家改造のために近代的思想を表す「新しい小説の形式」を模索する。明治政治小説『佳人之奇遇』『経国美談』などの中国語訳を分析しながら、清末に梁啓超から魯迅へ到る中国の近代写実小説の成立を紹介する。
目次
序 中国における近代的世界観への転換と「写実」
第1部 写実をめぐる言説の形成と変遷(伝統的小説観の転換と日本政治小説の翻訳;自然主義・写実主義から現実主義へ;アンチ・リアリズムとしてのポストモダン)
第2部 翻訳からつくられる写実小説のかたち(物語と啓蒙―明治期科学小説の重訳;叙述と啓蒙―『スパルタの魂』と明治期の雑誌記事;小説の遠近法―『域外小説集』;再現される「現実」―文言小説『懐旧』)
附 小説の正統性への自覚―周作人の初期翻訳の軌跡
著者等紹介
森岡優紀[モリオカユキ]
神戸大学文化学研究科単位取得退学。博士(学術)。中国文学研究、東アジア比較研究、韓国文化研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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オオタコウイチロウ
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・「写実」といえども中国では啓蒙の問題から自由ではないばかりか、むしろ現実の濃縮還元――啓蒙のもっとも有効な方法ーーとしてこそ“選択”されていた。社会主義リアリズムにそのまま接続されてゆく観点が、「写実」受容の基礎にそもそもあった。 ・魯迅はその延長線上で、「啓蒙」と「写実」との一致、つまりは、叙述形式=人称表現による焦点化に自覚的であった、最初の作者である。 ・そうした動員「効果」の文脈でこそ、「作者」よりは、「読者」存在を重視する趨勢が生まれてくることが納得される。2023/12/17