内容説明
全ギリシアが混乱の巷と化したペロポンネソス戦争の経過をつぶさに見聞し、克明に記録。気鋭の訳者による待望の完結篇。本書は原典の第五巻二五章から第八巻まで、すなわち紀元前四二一年の「ニキアスの和約」成立後から前四一一年までを収めている。
著者等紹介
城江良和[シロエヨシカズ]
四天王寺国際仏教大学助教授。1957年兵庫県生まれ。1985年京都大学大学院文学研究科博士課程修了。四天王寺国際仏教大学講師を経て、1997年より現職
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感想・レビュー
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roughfractus02
7
本書がペルシア戦争を描いたヘロドトス『歴史』の記述と異なるのは、記述の客観性という特徴だけでなく、戦争を将軍の立場から戦略として詳細に描いた点にあるという。確かに、土木工事の記述は兵站、地政、そして両軍の戦力と指揮官の戦績を比較し、その心理戦の動向も詳述される。が、それ以上に帝国であり民主制のアテナイが身分制の堅牢なスパルタに内乱を誘発させ、分裂を仕掛ける戦略の過程や、人的な面での任命と配置のトップダウン戦略を変容させる裏切りや亡命が、戦線の不透明さを増大させながら国家を危機に導く様が見え始める(未完)。2022/06/23
さーもんマヨ
5
ペロポネソス戦争史です2017/02/07
ヴィクトリー
3
前巻からそうだが、この著作では偉人の偉業は少なく、あるのは残念な人々の残念な歴史ばかりだ。中でもアテナイのシケリア遠征はその際たるものだろう。スパルタとその同盟との戦争が終らぬ中、思い上がりと、無知と、戦争によって得られる利益(指導者は武勲、民衆は従軍給与)に魅かれて遠征し、結果、全滅。アテナイ敗戦の大きな原因となる。この事が身近な歴史を思い出させるせいかもしれないが、歴史は偉大な事よりもこうした愚行からの方が学ぶことが多いのでは、と思わせる。その意味では、この著作はもっと読まれてよいものだと思う。2013/01/16
Hotspur
1
戦争11年目、アルキビアデスがアテナイに登場。本書で「帝国」と呼ばれるアテナイ敗北の原因となるシケリア遠征に当たってアテナイ使節とメロス委員との間に交わされる論争の劇的アイロニー。シケリア遠征を主張するアルキビアデスに対する著者の冷ややかな眼。結局アルキビアデスはアテナイを裏切り、更に保身のためにスパルタも裏切る。民主制と寡頭制を往復するアテナイの挽歌。それにしても、たった一世代違うだけのヘロドトスとトゥキュディデスの歴史家としての考え方の何という違い。2019/07/21