内容説明
幼き日々を懐かしみ、愛する妹との絆の回復を望む判事の女と、その思いを拒絶して、乱脈な生活の果てに恋人に裏切られる妹。先人の足跡を追い、ペトラの町の遺跡へ辿り着く冒険家の男と、名も知らぬ西欧の女性に憧れて、夢想の母と重ね合わせる少年。ノーベル文学賞作家による珠玉の一冊!
著者等紹介
ル・クレジオ,J.M.G.[ルクレジオ,J.M.G.] [Le Clezio,Jean‐Marie Gustave]
1940年、南仏ニース生まれ。1963年のデビュー作『調書』でルノドー賞を受賞し、一躍時代の寵児となる。その後も話題作を次々と発表するかたわら、インディオの文化・神話研究など、文明の周縁に対する興味を深めていく。2008年、ノーベル文学賞受賞
中地義和[ナカジヨシカズ]
1952年、和歌山県生まれ。東京大学教養学科卒業。パリ第三大学博士。現在、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授。専攻はフランス近現代文学、とくに詩
鈴木雅生[スズキマサオ]
1971年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。パリ第四大学博士。現在、学習院大学文学部教授。専攻はフランス近現代文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
137
70頁ほどの表題作と短い短編たち。全体に漂うエキゾシズム。初めて読む作家だが、他の作品にも、異なる肌の色、異なる文化を持つ女への憧憬が必ずあるだろうという気がする。同じ言葉を話していても母国語でなければ、異なる文化背景を持っていれば、不理解が生じ、それが興味の発端となる。言葉より身体で繋がることからくる理解への自然な欲求、もしくは体の繋がりがより意味を成すpretextとなると考えるのか…。女性は頭より子宮で考える方が魅力的なのだとどこかで言われている気がした。表題作の最後の一文の醸すイメージに囚われる。2017/12/23
Mishima
39
本を開いてすぐに、その一行目から釘付け。予感が確信へ。はじめてのクレジオ体験。横溢するエキソチズム。濃密な夜とあっけらかんとした日向の眩しさ。大人の事情と子どもの日常。堕ちてゆく女の、反転する意識。ノスタルジイとカタストロフィ。細密な自然描写の中に、さし挟まれる無造作にもとれそうな、人間のいとなみ。わたしに「語りかけてくる」言葉が頭にぶら下がったまま物語に吸い込まれてゆく。だから本を閉じても読書は終わらない。え、今のなに?なんて言った?本と会話がはじまる。私のための本をまた見つけてしまった。2018/01/10
めぐ
15
色々な時代の色々な国の短編と中編、1冊の中でいろいろな生や歴史を垣間見ることができました。私はいつも「いつの時代にもどこの国にも私みたいな奴っているんだろうなあ」と思っているのですが、「私みたいな奴」何人にも会えた感じです(『冒険を探して』に顕著)。1990年代に書かれた作品らしく、今読むと「純粋で美しい非西洋」と「悪い汚い西洋」の対比がやや安直に感じられますが、大国の大都市で故郷を想う気持ちは変わっていないでしょう。ル・クレジオの色彩感覚は相変わらずキレキレです。夜のシーンでも色がギラリと輝きます。2018/01/29
。
12
どの作品にも神話的な始源へ導く流れが底流している。失われた世界への凝視、思慕。混沌を抱きしめる者達、夜へと開かれる者達への美しい詩。彼らの尊厳、意志、開かれるその扉と共に立ち、世界の神秘に触れる瞬間に立ち合う。2018/10/11
erierif
12
『冒険を探す』が小説の枠をこえて長い詩のようで、語り継がれた伝説のようで、美しくとても良かった。15才の異郷の少女がさすらい生き延びる日々を描いた散文が、野生と芸術の混沌から浮び上る研ぎすまされた散文が、読む異郷の私の心を高揚させた。いずれの短篇も悲劇や不幸や破綻を秘めた女性たちを主人公に、その哀しみにロマンスまたは青い花と名付け、時には詩的にクールに研ぎすまされた文体で描いた短篇集。ある意味平凡な孤独、三面記事に載るようなメロドラマが身を切られるような耐えがたい人生の厳しさへと切迫する。2017/10/25