出版社内容情報
事実と虚構のあわいに求められた道とは――。文明を問う「社会派推理小説」によって出発した水上勉。だが、自らの生と重ねて「寺を焼き」「竹を削り」一休・良寛の境涯を跡づけつつ、遂には芸術と救済の向こうへと歩み出す。晩年の日々まで、その文業を初めて本格的に捉えた畢生の力作。
内容説明
事実と虚構のあわいに求められた道とは。文明を問う「社会派推理小説」によって出発した水上勉。だが、自らの生と重ねて「寺を焼き」「竹を削り」一休・良寛の境涯を跡づけつつ、ついには芸術と救済の向こうへと歩み出す。晩年の日々までその文業を初めて本格的に捉えた畢生の力作。
目次
1(『五番町夕霧楼』の復権;『雁の寺』から『雁の寺 全』へ;『越前竹人形』のその後 ほか)
2(公害問題と水上勉―文明vs.反文明の構図;『飢餓海峡』の達成;社会派ミステリーから日本型私小説へ、そして)
3(『蓑笠の人』と『良寛』とのあいだ―さまざまな帰郷;『才市』へと至る道;電脳暮しの日々―言葉を超えた世界へ)
著者等紹介
藤井淑禎[フジイヒデタダ]
1950年愛知県生まれ。慶應義塾大学卒業、立教大学大学院博士課程満期退学。東海学園女子短期大学助教授、立教大学教授などを経て、立教大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
107
水上勉は個人の体験や社会的事実と想像力を巧妙に組み合わせ、数々の名作を生んだ。『五番町夕霧楼』や『雁の寺』などは寺の小僧だった少年期あればこそだが、遠く離れた親への愛憎も深く関わっていた。『金閣炎上』で描かれた金閣寺放火犯との関係が、地図情報から成立しないことを証明する。社会小説とされる『海の牙』や『飢餓海峡』に、文明と取り残された人の相克の構図があるとは思いもしなかった。そうした作中人物と作者の密接な関係が失われた結果、私小説や評伝へと移行したのだ。貧しく激動した昭和を生き抜いた作家の根本を教えられた。2022/04/11
マカロニ マカロン
12
個人の感想です:B。『越前竹人形』読書会の参考本。水上勉さんというと『飢餓海峡』、『金閣炎上』のイメージが強いのだが、この本の中で水上さんがミステリーを書いていた時期はかなり短く、すぐに日本型私小説に転向していくと書かれていて、これまでのイメージが変わった。確かに『竹人形』は父親との関係、母への思い、などミステリーではなく私小説的なテーマのようだ。『マダケは11月に伐れ」でそのまま「11月」が放置される理由も、ミステリーでないとすればありなのだろう2023/12/26