内容説明
第一次グローバリゼーションのもと、東アジアの海とヨーロッパの海を結んだ長距離航路と、義勇艦隊が果たした役割とは。政治と経済が混然一体となった海洋戦略により、極東を含む帝国の辺境を統合、国際的経済闘争への参入を試みる姿をとらえ、ロシア史をグローバルヒストリーに位置づける。
目次
ロシア帝国と近代世界
第1部 地域―ロシア極東の近代(帝政期ロシア極東の農業と移民;無関税港制に見るロシア極東の変容;茶が結んだロシアとアジア;アムール川とスンガリ川をめぐる露中関係)
第2部 国家―ロシア義勇艦隊史(一九世紀のロシア義勇艦隊―就航とその後の模索;セルゲイ・ヴィッテの海運政策;商船化への道―日露戦争後の義勇艦隊)
第3部 世界経済―ロシア海運の発展(ロシア東亜汽船と義勇艦隊の競争―帝国の西と東;北方汽船の模索;ロシア商船とオデッサ;スエズ運河の通航料問題)
海から見たロシア帝国
著者等紹介
左近幸村[サコンユキムラ]
1979年生。2009年北海道大学大学院文学研究科博士後期課程修了。2013年新潟大学研究推進機構超域学術院准教授。現在、新潟大学経済科学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Ohta "Landsman" Tohkan
4
本書は海運史の中でも先行研究が少ない19世紀から20世紀初頭のロシア海運に関する研究書である。義勇艦隊関連の研究がメインではあるものの、交通を生起せしめる需要であるところの茶や穀物生産、ロシア商船や東亜汽船に関する章もあり、全般的にロシア帝国の海運理解を助けるものとなっている。ウィッテの海上交通に対する考え方や、海運とナショナリズムとの関連など、単に経済史に留まらない政治史、文化史の文脈を含んだ議論は、第1次グローバリゼーションをロシアから見るという目的を十分に満たしたものだといえるだろう。 2021/05/15
Toska
2
「ロシア人はお茶が好き」と言ってしまえばそれまでだが、「ロシア人は誰から、どうやってお茶を買ってきたのか」を突き詰めていくと、こういう興味深い研究になる。なけなしの海運を使い、第一次グローバリゼーションへの適応という難題に挑んだロシア帝国の苦闘。同時に、グローバル・ヒストリーの中で既存のロシア史の枠組みを保守する、ある種の野心的な試みでもある。若手の研究者でこういうものを書ける人が出てきているのは心強い限り。2021/09/18