内容説明
日本の発展を導いたのは、日銀中心の銀行システムだけではなかった。現代の郵便貯金や農協に連なる系譜をもつ「個人少額貯蓄」のネットワークが、地方経済の安定と成長に果たした役割を、資金供給の実例や制度設計から解明。見過ごされてきた半身に光を当て、経済成長の条件を問い直す意欲作。
目次
個人少額貯蓄と日本の経済発展
第1部 集める・回す(農村在来経済の発展を支えたもの―忘れられた金融インフラ;郵便貯金の誕生―個人少額貯蓄集合システムの形成;産業組合の形成と発展―自己循環するマイクロクレジット;郵便貯金の地方還元―再分配機構としての大蔵省預金部;大蔵省預金部改革―巨額資金運用の諸問題と諮問委員会)
第2部 分かち合う(恐慌・災害救済融資の拡大へ―戦間期の産業組合と中央金庫の成立;セーフティネットとしての産業組合―産業構造的不況を越えて;産業組合不在の影響―満洲移民の背景;戦後日本へ―「もう一つの金融システム」としての郵便貯金と農協)
近代化の淵源としてのもう一つの金融システム―市場経済の荒波への防波堤
著者等紹介
田中光[タナカヒカル]
1983年生まれ。2013年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院経済学研究科特任助教などをへて、現在、神戸大学大学院経済学研究科講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゲオルギオ・ハーン
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金融システムと聞くと中央銀行と銀行を中心に論ずるが、本書は「もう一つの金融システム」として、庶民の小口貯蓄として郵貯、産業組合による貸出の仕組みが戦前戦後の日本における資金の流れにどう影響したのかを研究している。興味深い点が多く、そもそも日本人の貯金志向を形作ったのは統計でみても郵貯によるところが大きい(というのも切手を利用すればどんな人でもいかに少額でもお金を貯められるなど貯金しやすい制度を整備していた)。産業組合の有無は地域社会の不況への対応力どころか存続にまで影響していた。2022/05/12