内容説明
これまで見過ごされてきた1930年前後の「日中戦争前夜」数年間に展開された日中の中国学研究者たちの学術交流について、その実態を検証し、意義を考察する。近年発見された目加田誠の留学記録『北平日記』を手がかりに、中国の古典戯曲小説分野での書誌学的交流(馬廉と倉石武四郎、孫楷第と長澤規矩也)や、『万葉集』・『源氏物語』の訳者銭稲孫が自宅に開設した日本語図書室「泉寿東文書庫」など、北平に咲いた東洋古典学の一斑を明らかにする。
目次
序章 一九三〇年代の北京
第1章 一九三〇年代の北京古書肆―目加田誠留学日記『北平日記』からたどる
第2章 馬廉の戯曲小説研究と日本人研究者との交流
第3章 九州大学蔵『支那小説戯曲版画集』編纂考
第4章 孫楷第の中国小説書目編纂と日中の学術交流
第5章 銭稲孫の日中学術交流―日中戦争までの足跡
第6章 銭稲孫の私設日本語図書室「泉寿東文書庫」
結論 一九三〇年代の北京の日中学術交流から見えるもの
著者等紹介
稲森雅子[イナモリマサコ]
1963年熊本県生まれ。1986年奈良女子大学文学部卒業。1986~2013年日本電信電話株式会社・西日本電信電話株式会社に勤務。2019年九州大学大学院人文科学府博士後期課程単位取得退学。2020年博士(九州大学、文学)。2020年度九州大学大学院人文科学研究院助教。現在、九州大学大学院人文科学研究院専門研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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BLACK無糖好き
20
著者は目加田誠の『北平日記』をきっかけに、1930年代の日中学術交流の分析に取り組んだとのこと。主な対象者は中国側が馬簾、孫楷第、銭稲孫、日本側は目加田誠、倉石武四郎、長澤規矩也、松村太郎。他にも多くの留学生や研究者が登場する。満洲事変以降、日中関係が混迷を極める中、研究者たちが夫々の学術的研究を推し進めるために私的な交流を図っていたその歴史の一端が垣間見える。ただ本書は、古い漢籍や中国の戯曲小説の版本研究などに携わっている研究者向けの側面もあり、門外漢の自分にはかなり敷居が高かった。2021/12/18