内容説明
この国の「かたち」は、いかにして作られたのか。オスマン帝国崩壊後に誕生し、今また大きな転機を迎えているトルコ。気鋭の若手研究者が様々な視角からこの国の来し方を明らかにし、行く末を論じる。
目次
「アタテュルクのトルコ」を問い直す―共和国史をめぐる研究潮流と本書の射程
第1部 アタテュルクの描いたトルコ国民像とその創成(国民史の創成―トルコ史テーゼとその後;国民創出イベントとしての文字革命;感性を「統合」する―国民音楽からトルコ民俗音楽へ;国父のページェント―ムスタファ・ケマルと共和国初期アンカラの儀礼空間)
第2部 トルコ国民像をめぐるネゴシエーション(アタテュルク後の宗教教育政策―ライクリキの転換点;国民国家トルコとアナトリアの諸文明―イスラム化以前の遺跡をめぐる文化政策;トルコにおける抵抗文化―ハンスト・キャンペーンからみる国家・社会関係)
第3部 交雑する空間のなかのトルコ国民―国境、移民・難民、隣国からの眼差し(トルコ共和国の境界―領域紛争と国境;トルコの移民・難民政策;イラクからみるトルコ―世論調査の計量分析から)
激動の五年間(二〇一三~一八年)と大統領制の始まり
著者等紹介
小笠原弘幸[オガサワラヒロユキ]
九州大学大学院人文科学研究院准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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BLACK無糖好き
17
九州大学のプロジェクト「近現代イスラーム世界の国家形成をめぐる宗教・暴力・民族共存の総合的研究」が元となっている。トルコ共和国の国家としての変遷を多角的に分析。注目したのは山尾教授の論文で、イラク人のトルコ観を世論調査の記述統計から分析している。(イラクの)クルド人は、個人生活へのトルコの貢献を低く評価するが、クルディスタン地域政府(KRG)の独立を支持する者は、トルコの貢献を高く評価する傾向にあるようだ。KRGの独立達成後には、隣国トルコとの良好な関係を期待せざるを得ないという複雑な感情が根底にある。2020/04/09
崩紫サロメ
14
九大の「近現代イスラーム世界の国家形成をめぐる宗教・暴力・民族共存の総合的研究」プロジェクトをベースとした論文集。トルコ史テーゼ、文字革命、音楽、儀礼空間、宗教教育、文化財、移民などのテーマを通してアタテュルクからエルドアンまでのトルコ国民像の変遷、変容を扱う。興味深かったのが第7章「トルコにおける抵抗文化」(柿崎正樹)で扱われる、他国に比べて致死率の高いトルコのハンスト。政治の抗議運動において確固たる地位を確立し、国家にその正統性を問いかける。国家観を扱う本書の中で非常に重要な観点だと思う。2020/10/06
しんさん
0
彼のオスマン帝国・繁栄と衰亡の600年史を読み、興味がわいたが専門過ぎて続かず、前著の帝国の滅亡欄から再読しました。セーヴル条約の国土分断を阻止したアタチュルク、現代のトルコの指導者エルドアン。詳しい人物評はわからないが、国を思う気持ちは伝わってくる。2021/01/17