感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
わたる
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著者の過去の論文を元にした研究書。古代ローマ政治史。序論と結論含め全9章。個人への権力集中が確立した元首政期と、そこへ至る過程としての共和政末期の社会状況を吟味し、ローマ社会と統治の本質を考察する。統治層内部の対立が激化したことの最終局面として、さらに安定した食糧供給の必要性によって個人への権力委託は現れたとし、それが元首政に繋がると指摘する。この時期はよくある政治史の論点だが、ミラーへの真っ向の批判という点と統治層と市民政治への鋭い洞察は画期的。ただ、タイトルにある「食糧供給」は後半ほとんど出てこない。2012/02/29
わたる
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1章は研究史。2章ではアウグストゥス期に統治理念として確立した食糧供給が共和政期に醸成されたと述べ、3章で前123年の法以降の穀物供給への統治権力介入過程を描く。4章ではアウグストゥスに与えられた「食糧供給のための配慮」の前例を前57年のポンペイウスに見出し、その先例たる前67年のガビニウス法の背景に元老院が穀物供給の安定化を意図していたと5章で指摘し、単独統治者への権力委託という元首政期への連続性を示す。6章・7章はさらに共和政中期にまで遡る。考察が統治層のみに止まっているため、民衆側の研究が待たれる。2012/08/08