内容説明
戦後文学の陥穽を衝く!人間性=主体性の回復をめざした日本戦後文学。しかし、そこに今次大戦の根本原因があるのだとしたら?武田泰淳・大江健三郎・小島信夫の作品に表われた「動物」の表象を手がかりに、文学そして共同体の再生を企図する、気鋭の力作。
目次
なぜ動物なのか?
第1部 武田泰淳―国家の戦争と動物(「審判」―「自覚」の特権性を問う;『風媒花』―抵抗の複数性を求めて ほか)
第2部 大江健三郎―動物を殺害する人間(「奇妙な仕事」―動物とファシズム;「飼育」―言葉を奪われた動物 ほか)
第3部 小島信夫―家庭を撹乱する動物(「馬」―戦後家庭の失調;『墓碑銘』―軍事化の道程 ほか)
第4部 動物との共生へ(『富士』―狂気と動物;『万延元年のフットボール』―傍らに寄り添う動物 ほか)
非対称的な倫理
著者等紹介
村上克尚[ムラカミカツナオ]
1978年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了。博士(学術)。現在、日本学術振興会特別研究員(PD)。青山学院大学、共立女子大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kenitirokikuti
11
読書前メモ。世界文学の方で「動物をめぐる哲学的議論」がある。2003年にノーベル文学賞を受けた南アフリカの作家クッツェー『動物のいのち』(原著1999)に由来するそうである。乱暴に内容紹介すると、ホロコーストと家畜を比較したもの。戻って、本書の序章では、『動物のいのち』のほか、アガンベン『ホモ・サケル』『例外状態』(およびカール・シュミットの「例外状態 Ausnahmezustand)、エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロなどが引用されてる。そこにそっと『ゴールデンカムイ』付け足したい。2018/03/31
澄川石狩掾
6
武田泰淳、大江健三郎、小島信夫のテクストを、デリダの動物論を導入しながら読み解いており、非常に勉強になった。しかし、一切の共通の地平を共有しないような他者(動物)との関わりの中で変化、共生するべきであるという本書の一貫した主張に疑問を抱いた。そのような「共生」は本当に実現しうるものなのだろうか。その可能性あるいは不可能性についての考察も必要なのではないかと思った。2021/10/21