内容説明
母が狂っていたという過去を知り、自らも狂うのではないかという恐れを抱き続ける男(近づく狂気)。過去に捨てた子どもと知らずに、彼女と肉体関係を結ぶのではないかという恐怖に囚われる男(子への恐怖)。自害を予告しながらも、目の前の男に死について滔々と語る男(遺言)。狂人の内部が覗き見られる、悪魔的短編小説13編を収録。
著者等紹介
デュジャルダン,エドゥアール[デュジャルダン,エドゥアール] [Dujardin,´Edouard]
1861年生まれ。初期の象徴派に属する作家・詩人。二十代からマラルメの火曜会に属し、二十四歳ごろ「ルヴュ・ワグネリエンヌ」や「ルヴュ・アンデパンダント」を創刊。1886年『妄想と強迫』、1888年『月桂樹は切られた』を刊行。1891年詩『恋愛の喜劇』。それ以降、作者の興味は宗教史の研究などに移り、初期の象徴派的作品への注目をそらせる。1949年死去
萩原茂久[ハギワラシゲヒサ]
フランス文学者。甲府市に生まれる。1971年東京大学大学院人文科学研究科博士課程満了。獨協医科大学名誉教授。元国際医療福祉大学教授。著書『心理小説における情念と自我―ラ・ファイエット夫人研究』(風間書房)文部省助成学術図書、『記録と小説とのあいだ―ラ・ファイエット夫人作品論』(北樹出版)日本図書館協会選定図書(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
61
ジョイスやフォークナーで世に知れた「意識の流れ」の源流に位置する作品らしい。基本的に主人公の内面独白が中心に話は進んでいくのだが、どの話も強迫神経症じみた圧迫感を持っているので、読んでいてなかなか辛いものがある。どちらかというと前二者よりも、カヴァンの読後感のような印象があるな。19世紀末らしく「地獄」や「聖職者」等無神論を主題にした作品も興味深いが、話として面白いのはやはり「子への恐怖」「足つかみ悪魔」「鉄の処女」といった強迫を題材にした作品群。でも面白いといっても、どれも内容は欝々としているからなあ。2016/06/01
NutsheЛ
11
滅びつつある魔術や薄れつつある妄想が人間の心の隅に息をひそめ、しかし確実に人間の首を絞めてゆく。不安症よろしく、幻視者たちが目に見えない何かに追い詰められてゆく胸中が痛切に綴られる。 マラルメやルドンに宛てるという文章形式をとってはいるが、それがどれだけの意味を為しているのかと問われれば首を捻ってしまう。というか、訳があまりにずさんであるように感じた。期待外れ。2018/12/15
qoop
8
精神病理をテーマに編まれた掌編/短編集。幻視者から神秘を剥奪し、神経症という唯物的な地位を与えた19世紀。本書の諸作は、揺らぎつつ変質するその内面を淡々と短文に写す。暗い寓話というべき〈地獄〉〈聖職者〉は特に読み応えあり。他に、幼時の恐怖を年経て初めて感じたとしたら…と考えさせられる〈足つかみ悪魔〉、一歩足を踏み出しかけて我に返る、そんな心情は日常の中でありがちと思わされてリアルな〈鉄の処女〉などが印象に残った。2016/11/15
龍國竣/リュウゴク
6
「意識の流れ」と呼ばれる手法を生み出した作家による短篇集。マラルメ、リラダン、ユイスマンス、ルドンらに捧げられている。「狂気は遺伝する」という妄想に囚われた男の意識を描いた作品から始まり、狂気や魔術に関する作品が続く。幽霊を見た男の短い黒髪は山の雪より白くなって逆立ち、眼は膨張した眼窩から飛び出し、息づかいを失った肺はのけぞり、腹は収縮し、喉はとつぜん乾き、心臓は鼓動を打つのを止め、精神は化石のようになる。2016/06/19
刳森伸一
5
妄想や強迫観念によって自分の首を絞める人々の心理を「意識の流れ」的な手法を用いて暴き出す13篇の小説からなる短篇集。面白さが分からない短篇もあるけれど、中にはゾクゾクさせられるものもあって、他では得がたい面白さのある本だと思う。とはいえ、日本語として意味が通らない文章や、違和感のある表記が散見されるのが残念だった。原文自体が乱雑なのだとは思うけれど、翻訳や校閲をもう少し丁寧にやって欲しい。 2016/09/12