内容説明
“理想の教育論”という従来のイメージを根底からくつがえす壮大な思考実験。文明の「悪=病」を斬る。自分を他人と比べ、優位に立とうとするはてしない競争が、とめどなくふくらませていく“期待という病”。私たちはこれにどのように向かい合ったらよいのか。いま!の問題意識で名著を読み直す人気シリーズ。
目次
序章 正気を失わないために
第1章 『エミール』を読み解くための前提(ルソーの生い立ちと『エミール』出版までの経緯;『エミール』の難しさ;日本で読みつがれてきた『エミール』)
第2章 『エミール』が語る「真理」(自然にかなった秩序;身体的存在から精神的存在へ;現実社会に生きる道徳的存在の苦しみ)
第3章 「魅力を磨く競争」を問う(もちものを見せびらかせたいという欲望;競われるぜいたく;ナルシシズムと利己愛)
終章 「とめどなき期待」という病
著者等紹介
坂倉裕治[サカクラユウジ]
1965年、秋田県生まれ。早稲田大学第一文学部哲学科人文専修卒業。慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻博士後期課程修了。博士(教育学)。早稲田大学教育・総合科学学術院教授。専門は、教育哲学、フランス思想。著書に、『ルソーの教育思想―利己的情念の問題をめぐって』(風間書房、1998年、第16回渋沢・クローデル賞受賞)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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プレイメーカー
8
「子どもの福音書」と呼ばれる『エミール』だが文明を批判し、内なる自然の声を聴くように訴えていたルソーだが、子どもの教育に関しては、周到に計画し、寧ろ、大人の助けなしには子どもを有徳な人間に導いていくことは出来ないと考えていたようである。文明を批判しつつもその全てを否定してしまうのではなく、人為的に手を加えて、自然を残すという少し複雑な内容だったんだなと考えた。また、当時の教育の理想が「人間の個性の全面的展開」であったことも興味深い。今日ではこれは夢物語だろう。教育にこれは望めないと個人的には強く思う2022/02/06