出版社内容情報
人口の6割をマヤ文明の末裔である先住民インディヘナが占める神秘の国グアテマラ。熱帯ジャングルの中に点在する遺跡、村ごとに異なる紋様の民族衣装をはじめ魅力尽きない同国の姿を、歴史地理、社会経済、政治外交、文化芸術など多彩な視点から描き出す。
はじめに
1 人と自然と地理
第1章 「薪になる木の豊かな場所」――多様な自然環境
第2章 歴史的変遷――行政区分と経済構造
第3章 グアテマラの地名――多くはナワトル語を起源
第4章 多様な人びとと文化――インディヘナとは、ラディーノとは?
2 マヤ文明の時代
第5章 マヤ文明の成立と発展――壮麗な建造物を持つ都市の誕生
第6章 先スペイン期の遺跡群――各地に存在するマヤの遺産
第7章 グアテマラ考古学――古代メソアメリカにおける重要性
第8章 北から見た古代マヤ文明――北の地域との関係性
第9章 南から見た古代マヤ文明――南の地域との関係性
3 スペインの征服と植民
第10章 アルバラードのグアテマラ征服――総督アデランタードの誕生
第11章 征服者アルバラード――勇気と行動力の一方で強調される残酷性
第12章 異文化との衝突――マヤの王たちの対応
第13章 スペイン植民地支配体制の確立――エンコミエンダ制とレパルティミエント制
第14章 キリスト教の布教と先住民――植民地支配の末端組織に組み入れられる
第15章 スペイン植民地時代の音楽――グアテマラの誇るべき文化遺産
第16章 コロニアル時代の建築――独特の耐震構造を持った建造物群
第17章 スペイン王に宛てた先住民の訴え――一六世紀ナワ語書簡集
4 スペインからの独立
第18章 独立前後――中米連邦共和国の成立と解体
第19章 独裁の時代――独裁者たちとアメリカ資本
第20章 民主主義の芽生え――一〇年間の春の季節
第21章 民主主義の挫折――内戦の勃発
5 現代の政治・経済・人権
第22章 新自由主義――増大する国民の負担、進まない政府改革
第23章 ユナイテッド・フルーツ社と米国企業の利権――中米企業を買収しグアテマラ製造業の発展を担う
第24章 コーヒー産業の利権と政府の癒着――大手外国企業が輸出の大半を独占
第25章 新政権の経済政策――企業家・地主層の利害を代表
第26章 マキラドーラ――アパレル輸出加工業の成長と工場労働者の現状
第27章 国内武力紛争――政治暴力から民族虐殺へ
第28章 ジェノサイド――責任の所在と補償問題
第29章 和平協定――未解決の重要課題
第30章 選挙と政党――先細る民主体制の支持
第31章 先住民族と貧困――改善されない差別と排除
第32章 市民の安全保障――悪化する組織犯罪と青少年犯罪
第33章 僻地農村とドナーの援助――国家の発展と農村の貧困
第34章 反乱と抵抗の五〇〇年――グアテマラの先住民運動
第35章 マヤ先住民族のアイデンティティの形成――民族抹殺を超えて
6 マヤの言語と文字
第36章 インディヘナの言語――マヤ諸語・シンカ語・ガリフナ語
第37章 マヤ文字――高度なメソアメリカ文明の象徴
第38章 テキスト――低地と高地に見られる特徴
7 宗教・祝祭・文化
第39章 守護聖人の祝日――サンティアゴ・アティトランの事例から
第40章 コフラディア――信徒集団組織は互助組織
第41章 サンティアゴ・アティトランの復活祭――甦るマヤの祖先神マシモン
第42章 マシモン(サンシモン)信仰の諸相――道路網の発達で広がる商売のカミサマ
第43章 祭りとクシャ酒――インディヘナ社会の屈折した歴史の表れ
第44章 祭りと音楽――スペイン人とインディヘナがもたらした複雑な響きの世界
第45章 祭礼衣装――村ごとに異なる色鮮やかで華麗な装い
第46章 エスキプラスの黒いキリスト――巡礼の村は中米和平のシンボル
第47章 マヤ文化復興運動――マヤ語と民族衣装
第48章 プロテスタント布教とカトリックの対応――政治・社会変動を背景に急増するプロテスタント
8 文 学
第49章 植民地期にさかのぼる文学の伝統――ホセ・ミリャに始まる〈チャピン像〉の造型
第50章 ディアスポラと現代文学――トラウマとしての反革命クーデター
第51章 〈魔術的リアリズム〉の創始者――滞欧体験と作家アストゥリアスの誕生
第52章 『ポポル・ウーフ』――先住民マヤの聖なる書
第53章 エンリケ・ゴメス・カリーリョ――日本に魅せられた報道文学のプリンス
9 メルカードの風景
第54章 ディア・デ・プラサ――買い物・情報交換の重要な場である定期市
第55章 ソロラ地方の市場網――アルティプラノ南部の市場から
第56章 先住民の商人――九割以上がマヤ系先住民
第57章 大規模卸売商人と地方市場の変動――モータリゼーションの進展で生まれた新しい商業形態
第58章 地方市場と農業構造の変動――国際市場の影響下に組み込まれる地方農民の生活
10 芸術・観光
第59章 ホルヘ・サルミエントス――ラテンアメリカを代表する音楽家
第60章 腰機と織技法――マヤの民族衣装や染織文化の重要な要素
第61章 染織の一〇〇年をたどる――サンタ・カタリーナ・パロポ村から
第62章 屋須弘平――一〇〇年前にアンティグアに暮らした日本人写真家
第63章 アンティグア――世界遺産都市を散策する
第64章 グアテマラ博物館事情――グアテマラ市、アンティグア市に集中
第65章 グアテマラ交通事情――問題が多い国内交通網
グアテマラを知るためのブックガイド
索 引
はじめに
グアテマラに関する日本のメディアの姿勢を見ると、大まかに二つに分けて考えることができるのではないだろうか。一つは観光を対象とした報道で、マヤのピラミッド遺跡と色彩豊かな民族衣装のマヤ人の姿を写し、「秘境」の異国情緒をかきたてている。もう一つは、一九六〇年から続いた内戦で、グアテマラ政府軍が先住民マヤの諸村落を破壊し村人を虐殺した事件を告発し、先住民の人権擁護を訴える報道である。前者だけの知識で無邪気にグアテマラ入りをすると命にかかわるし、後者だけの報道しか日本に流れないと、危険で入国不可能な国という印象を与えてしまう。三六年におよぶ陰惨な内戦が一九九六年の和平協定の締結で終りを遂げ、現在、グアテマラは劇的に変化している。前者と後者の溝を埋めて、等身大のグアテマラを報せる手段はないものかと自問自答している時に、明石書店の編集責任者・大江道雅氏を紹介された。
本書はグアテマラの自然、文化、歴史、政治、経済、社会・人権、人びとの生活、芸術・観光などを総合的に理解できるように10部65章で構成されている。本書の多彩な執筆者陣は各分野で活躍され、数も二三人と多い。すでにグアテマラに関するすぐれた専門書や論文を出版されたベテラン研究者と、現地に入り込み新しい研究テーマに挑戦している若手研究者と、さらにグアテマラ在住の「グアテマラ通」の各氏が筆を競っている。関心を惹かれた分野をより詳細に調べたい時は、読者にとって巻末の参考文献や索引が良い手助けになるであろう。
編者がグアテマラを初めて訪れたのは一九六五年のことであった。日本の経済的高度成長をもとに、一九六四年に海外旅行の自由化が実現し、一人年一回米ドルで五〇〇ドル(当時の邦貨で一八万円)を上限に国内資金の海外持ち出しが可能となった翌年のことである。欧米留学ならいざしらず、学部生がメキシコや中米の森深く眠る「神秘のマヤ文明遺跡」を見たくて日本を飛び出すというのはかなり珍しいことであった。高度成長に突入したとはいえ、まだ日本は相対的に貧しく、それにひきかえ、未熟な私には表面的な事象しか読み取れなかったせいもあり、メキシコや中米を一年間旅して豊かだという印象を得た。当時のグアテマラ山間部は鬱蒼たる森と樹海が広がり、首都のグアテマラ市も大統領府をとりまく中心街だけの静かなたたずまいを見せていた。再び訪れたのは二七年後の一九九二年であり、日本はいつのまにか世界に名だたる経済大国となり、たばこと塩の博物館(上野堅実館長・当時、半田昌之総括ディレクター)を主体とするJT中南米学術調査プロジェクトが、京都外国語大学大井邦明教授(考古学)によって編成され、私は文化人類学調査者として現地調査に赴いた。一方、グアテマラは長びく内戦と人権抑圧で疲弊していた。旧都心部は昼でも強盗に襲われる危険地帯となり、新都心部は近代的ビル群が林立するとはいえ、午後六時以降は戒厳令さながら人影がまばらであった。この年は奇しくも新大陸が「発見」された一四九二年から五〇〇年後であり、抑圧され続けたマヤ人による先住民文化復興運動が地下水脈から浮上し、しだいに目に見える形で現れてきていた。
その後、勤務校の大阪経済大学より一年間の在外研究(一九九九年度)の機会を与えられたり、また、吉田栄人・東北大学助教授を代表とする文部科学省研究費補助金(二〇〇二~〇四年度基盤研究(B)課題番号一四四〇一〇〇九)を受けるなど頻繁にグアテマラ調査で訪れることができた。そのたびに、幹線道路、大型商業施設、バス・ターミナルなどが整備され、同時にマヤ・ルネッサンスが先住民エリートを中心に繰り広げられる光景を目にした。
グアテマラの人物名や地名は日本の読者に馴染みのないものが多く、悩んだ結果、用語統一にあたっては『ラテン・アメリカを知る事典』(平凡社)の凡例に準じ、スペイン語l lの表記は[ly]とし「リャ行」に統一している。地名はおもにグアテマラ国立地理学院発行の『グアテマラ地理事典』(Gall
Francis (compilacion)
内容説明
本書はグアテマラの自然、文化、歴史、政治、経済、社会・人権、人々の生活、芸術・観光などを総合的に理解できるように10部65章で構成されている。本書の多彩な執筆者陣は各分野で活躍され、数も二三人と多い。すでにグアテマラに関するすぐれた専門書や論文を出版されたベテラン研究者と、現地に入り込み新しい研究テーマに挑戦している若手研究者と、さらにグアテマラ在住の「グアテマラ通」の各氏が筆を競っている。
目次
1 人と自然と地理
2 マヤ文明の時代
3 スペインの征服と植民
4 スペインからの独立
5 現代の政治・経済・人権
6 マヤの言語と文字
7 宗教・祝祭・文化
8 文学
9 メルカードの風景
10 芸術・観光
著者等紹介
桜井三枝子[サクライミエコ]
1944年生まれ。大阪経済大学人間科学部・人間科学研究科教授。博士(上智大学、地域研究)。専攻は文化人類学、メソアメリカ地域研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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