出版社内容情報
「これまでの多くの科学倫理に関する本が書かれてきたが、本書はおそらく〈科学者は軍事研究に手を染めるべきではない〉と主張する最初の本になると思っている」。『科学者心得帳―科学者の三つの責任とは』(2007)を継ぎ、科学者の軍事研究に絞った倫理規範の考察。第一次世界大戦、ナチス時代の科学者や日本の戦時動員体制の状況から、安倍内閣による「防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度」の詳細、AI兵器・ゲノム編集まで、普遍的かつタイムリーなテーマをはじめて全体としてまとめた本。歴史考察と科学者共同体の現状、政治や教育の関係などが重層的にとらえられ、よく理解できる。
内容説明
科学者の軍事研究に絞った倫理規範の書。歴史考察から防衛省創設の委託研究制度、大学と科学者コミュニティ、AI兵器まで。普遍的かつ喫緊なテーマの全体像を記す。
目次
序章 新しい科学者倫理の構築のために
第1章 科学者と戦争
第2章 軍事研究をめぐる科学者の常套句
第3章 非戦・軍縮の思想
第4章 安全保障技術研究推進制度の概要と問題点
第5章 軍事研究に対する科学者の反応
第6章 やはり、科学者は軍事研究に手を染めてはならない
終章 現代のパラドックス
著者等紹介
池内了[イケウチサトル]
1944年兵庫県生まれ。総合研究大学院大学名誉教授。名古屋大学名誉教授。宇宙物理学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あすなろ
47
軍事研究と民生研究。この言葉を知っている若者はどれだけいるのか?また、戦争は発明の母である、という言葉も。本書はそんな現代の我が国にその警鐘を鳴らす一冊。原爆の研究等史実の例示を述べ、愛国心の推移から来る軍事研究への傾斜やその必要資金である国家予算にも言及する。軍の研究や人脈の探索や入り方についても述べる。そして啓蒙と警鐘を述べる。平時慣れし過ぎている我が国で研究者のみならず我々も普段通達だから等丸呑みするいつのまにか染み付いた習慣を捨て去り、悪法なら悪法と述べていく習慣がなければと方策を述べる。2019/09/29
禿童子
34
2015年にスタートした防衛装備庁の安全保障技術推進制度に対する批判の書。したがって、この制度について微に入り細に入り分析しています。これに対する2017年の日本学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」についての解説もあり、2020年10月の日本学術会議の任命拒否と組織見直し論の背景に安全保障と学術コミュニティの緊張関係があることがよくわかります。軍事技術の民生利用(スピンオフ)と民生技術の軍事利用(スピンオン)という、民生と軍事の両方に利用されるデュアルユースの問題について理解するのに好適です。2020/10/23
Susumu Kobayashi
9
大学で軍事研究はタブーということは知っていたが、日本学術会議が1967年に「軍事目的のための科学研究を行わない声明」というのを出していたことを知らなかった。こういうことはもっと周知しなければ、ぼくより後の世代は知らないだろう。防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」が研究者を取り込もうとしていることもよくわかった。理想的には科学者全員が軍事研究に手を出さなければいいが、抜け駆けする人間は必ずいる。問題は日本国内だけではなく、全世界でそれをやらなければならず、この理想論は実現不可能となる。2019/11/02
Mc6ρ助
7
自衛権の概念が、1928年のパリ不戦条約以降と知ったことは収穫なのだが、池内先生の不戦を前提とした議論は昭和の香りが強くして、集団的自衛権と自衛権の間で揺れる平成・令和の日本人にはナイーブに過ぎるような気がする。とはいえ、不平等同盟と言ってくれてるのに地位協定の改定を持ち出せない日本の自衛権が何を守るのかアラ還の爺さまにはついて行けるわけもなく、まして、そのことに自覚的でない軍事研究はある意味731部隊などよりも恐ろしいと、所在なく佇むしかない。2019/08/03
ともたか
4
それはデュアルユースであろうとなかろうと軍事研究は 人を殺す、傷つけることが目的になるからだろう。2019/08/03