出版社内容情報
毛沢東の著作や中国文化の中から論理学上の中国的特性を抽出し、中国人が二千数百年にわたって追求してきた哲学的主題を照らし出すユニークな論考。
内容説明
日本人が違和感を感じる中国人の行動には、確固たる論理があった。彼らには“名実一致”(形式と内容の一致)への強い欲求があり、その根本にあるのは漢字である。表意文字としての中国の漢字には、表音的に転用した日本よりもはるかに充実した意味が込められている。では名実が分離したときはどうするのか。「はじめに物ありき」。ここから“実”優先の思想が生まれる。“名”優先で「権威」を重視する日本人とは対照的に、中国人は「権力」を重視する。商売上でも、将来への含みを持たせたりしない。その時々の充実を好み、サービスといった付加価値も苦手だ。中国人特有の論理からその文化を読み解く。
目次
第1章 日本語と中国語と
第2章 古代中国人の論理学意識
第3章 現代中国人の論理学意識
第4章 中国文化の特色
第5章 経学的思考
第6章 “名”優先の日本人と“実”優先の中国人と
著者等紹介
加地伸行[カジノブユキ]
1936年生まれ。60年、京都大学文学部卒業。高野山大学、名古屋大学、大阪大学、同志社大学を経て、大阪大学名誉教授、立命館大学フェロー。専攻は中国哲学史。文学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kochi
18
漢字からなる中国語の独特な性質(活用がない等)を説明し、中国での論理学が意味論を重視した経緯を述べ、名実論争でも中国では名実の一致が重要であったことを説明しながら、公孫龍の「白馬非馬」の解読が試みられる。著者の中国関連論文をくっつけたような構成。テーマとしては諸子百家の古代から毛沢東の現代までの中国の論理学や哲学。文化大革命に至る過程での論理学を巻き込んだ権力闘争などあきれてしまうが、ソ連でも記号論理学はブルジョア的か?が議論されたらしいので、当時は一体何をやっていたのか?今の時代は幸せだなぁとしみじみ。2022/08/11
in medio tutissimus ibis.
5
表意性の強い文字を持つ中国語は、存在するものに対応する語を持つ特徴から、実在論的な見方を常とする。それを駆使する中国人には常に具体的な現実が把握される。ところが、名実は常に一致する訳ではなく、これは統治システムや文化(=非自然的な人間行為全て)に関わる中国哲学史上の重要議題としてあり続けた。最近ではそれは、共産主義での名実一致を掲げる農村派と資本主義的な政策で実を取ろうとする都市派の相克として顕れた。対して日本人は名=普遍性を重視し、法の支配をはじめ儀礼を通した集団生活を得意とする。両者の溝は意外と深い。2018/03/01
田蛙澄
5
公孫竜らの名家の白馬論や指物論について単なる詭弁でないと知ることができたのが良かった。また西洋と中国の論理学の違いとしての統語論的傾向と意味論的傾向の差が言語の差に起因するということを具体的に述べているのも良かった。名実一致を目指しつつ実を優先し分類を進めていくことで世界を理解しようとする思考、経学の伝統による解釈学的な発想という特徴もなるほどなと思う。ただ毛沢東と矛盾論についての現代中国の話については今一つよく分らなかった。2017/01/21
かった
3
期待しているものとは違った。期待していたのは、「中国人はこんな変な考え方をするが、彼らには彼らなりの裏付けがある」というもの。 本書は、漢字から説いて諸子百家時代の名と実の一致にいたり、現代中国、主に毛沢東の思想に触れる。2017/06/21
unamaster
3
中国人の思考の特徴とそれに対比させて日本人の思考の特徴がとてもわかりやすく書かれている。第三章は毛沢東の「矛盾論」思想がどのように中国に影響を及ぼしたかと言う専門家でないと難しい内容に戸惑ったが、その他はとても平易だ。漢字のみの中国文化は表意性文化で、日本はその漢字を取り入れながらも助詞、助動詞、活用形等を発達させて、話す主体の判断や感情を表すようになった表音的な文化。思想とはその民族が持つ言語によって出来上がっているから、同じものを見てもその表す内容は自ずと違ってくるという説明に納得。中国では「文化」の2016/05/04