出版社内容情報
梅田地下街の迷宮、ミナミの賑わい、2025年万博の舞台「夢洲」…街々を歩き、文学作品を読み、思考し、この大都市の物語を語る。
内容説明
キタとミナミの違いとは何か?梅田の巨大地下街はどのように形成されたのか?2025年万博予定地「夢洲」の暗い過去とは?梅田、船場、アメリカ村、飛田新地、釜ケ崎、新世界、法善寺横丁、ユニバ、夢洲…気鋭の地理学者が街々を歩き、織田作之助らの著作を読み、この大都市の忘れられた物語を掘り起こす。大阪とはどんな街なのか?これを読めば、見える景色はがらりと変わる。
目次
序章 路地と横丁の都市空間
第1章 大阪“南/北”考
第2章 ラビリンスの地下街
第3章 商都のトポロジー
第4章 葦の地方へ
第5章 ミナミの深層空間―見えない系をたどる
第6章 大阪1990―未来都市の30年
終章 界隈の解体
著者等紹介
加藤政洋[カトウマサヒロ]
1972年信州生まれ。立命館大学文学部教員。富山大学人文学部卒業、大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程修了、博士(文学)。専門は人文地理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
67
大阪市内の地層を掘り返すが如く、その過去からの変遷を追った一冊。キタとミナミの対比から始まり、大阪駅が出来た事による梅田の変遷、商都大阪を代表するような船場の事、此花区のユニバ以前に新世界を中心とするミナミの変化等、大阪を知る人なら何処を取っても興味深いものばかり。個人的にはキタに行く事が多いのだが、駅前のあそこをダイヤモンドというのも初めて知る次第。黒門市場ももっと昔からあるものだと思い込んでいた。読んでいるうちに大阪のダイナミックな歴史と地霊のようなものに触れ、また彼方此方を回りたくなってきた。2019/06/05
ホークス
39
2019年刊。大阪中心部のキタ(梅田辺り)とミナミ(難波辺り)の近代史をたどるエッセイ。30年以上前、私は市外から遊びや学校で通っていたが、地理があやふやだった。本書は地図を用いて解説しており、北新地、船場、阿倍野などの位置関係がよく分かる。お陰でその場所の来歴や特徴をかなり理解できた。昔感じた街の雰囲気が理由付けできて嬉しい。都市は、交通機関、住宅地、商業地、歓楽街などが互いに影響しながら機能している。という著者の話も地理から入ると分かりやすい。現住の東京は、俯瞰と実感の両方で捉えるには複雑過ぎるようだ2021/02/07
hatayan
33
都市大阪の成り立ちを過去の文学作品や資料をもとに解説。 大阪の「キタ」「ミナミ」はともに繁華街に由来するが、前者は新しく開発された地区を中心に成立しているので東京的。後者は旧来の市街地に根を下ろし発展しているので土着的と対照される。 作中では、強力な磁力を放つ飛田新地と釜ヶ崎、変貌した臨海地域としてUSJにも紙幅。 著者は現代の大阪の都市政策には「場の関係性が考慮されていない」と批判的。2025年の大阪万博は1990年代の都市計画の後処理として誘致されたという視点は意識しておきたいところです。2019/09/21
trazom
28
今では多くの観光客で賑わう大阪であるが、この本は、消し去った過去を思い出させてくれる。水運がもたらしてくれた恩恵を見捨てるような川の埋め立て、「闇市」を締め出しながら発展した地下街、第5回内国勧業博覧会に伴って追い出された者たちによる「釜ヶ崎」など、捨てられ、虐げられた者の悲鳴が聞こえてくる。著者の専門である「花街」「遊郭」の話題が豊富だが、遊郭、演芸場、歓楽街などの賑わいの場の殆どが、大阪に数多く存在した墓地や刑場の跡地である。その地に散った人々の無念の魂こそが、この街のゲニウス・ロキではないかと思う。2019/06/13
浅香山三郎
16
奇しくも「大阪都構想」を巡る住民投票の行なはれる直前に読む。大阪市を無くせば、状況は良くなるといふ前に、都市大阪の成り立ち(歴史や地理)や現状を我々はそもそもどれほど知つてゐるのか。近世以来のまちの上には、近代都市の産む様々な猥雑さが入り混じり、沿海部の葦の地方は開発されて大工業地帯に変容してゆく。キタ、ミナミ、新世界、飛田、夢洲、それに梅田地下街など、大阪の様々な場所の来歴を、文学者の観察眼をも借りながら、解きほぐし、いちど失敗しながら、亡霊のやうに復活した沿海部開発の既視感をも冷徹に見据ヘてゐる。2020/10/31