内容説明
本書は、まず、1870年代の日本でたいへんな人気を得た、サミュエル・スマイルズの『セルフ・ヘルプ』(邦訳『西国立志編』)を分析する。そして、教育を受けて、俸給生活者になるという、立身出世の理想像がその後の数十年間に、一部の士族層から一般へと広がっていく中で生じたさまざまな変化を描きだす。これはある意味では思想史である。しかしそれは、特定の個人を取り上げるような普通の意味での思想史ではなく、すべての日本のインテリが経験したある体験の変容をたどり、彼らが学校へ行き、職を得る中で共通に身につけたエートスを扱うものである。注目するのは、日本人全体ではなくて、近代日本の政治的・経済的・文化的リーダーになることをめざしていた若者たちである。本書はまた、日本の「新中産階級」の登場の物語であり、拡大していくこの集団に加わろうとする若者たちの奮闘と挫折の物語でもある。
目次
1章 自助―S・スマイルズと中村敬宇
2章 富貴のための学問
3章 政治青年
4章 「秩序正しくなりつる」社会
5章 成功青年
6章 煩悶青年
7章 新しい世代の新しい価値観
8章 「サラリーマン」の時代へ
結論 近代日本社会と青年