内容説明
複雑になるだけの著作権は本当に文化のためになっているのか?それはユーザーの権利を阻害していないだろうか?本書はこうした観点から、権利論とコモンズ論を基軸に人文社会、自然科学の知見を幅広く援用し、そもそも文化とは何かまで根底的に問い直す。ユーザーの人権という視点から、数百年に及ぶ著作権のパラダイム転換を提案する意欲作。
目次
第1部 作者とユーザーの人権(著作権の人権論;障害者アートをめぐって;ユーザーの人権;作品が身体化する)
第2部 「文化」とは何か(「文化」概念の変遷;日本の「文化」概念の現在地)
第3部 文化のコモンズへ(文化コモンズを考える;「海賊版」からオープンアクセスへ;「文化の発展」のために)
著者等紹介
山田奨治[ヤマダショウジ]
1963年生。現在、国際日本文化研究センター教授、総合研究大学院大学教授。京都大学博士(工学)。専門は情報学、文化交流史。筑波大学大学院修士課程医科学研究科修了後、(株)日本アイ・ビー・エム、筑波技術短期大学助手などを経て現職。ケンブリッジ大学ウォルフソン・カレッジ、フランス国立社会科学高等研究院、ハーバード大学ライシャワー研究所で客員研究員等を歴任。『東京ブギウギと鈴木大拙』で第31回ヨゼフ・ロゲンドルフ賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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人生ゴルディアス
5
本書タイトルは『著作権は文化を発展させるのか』であるが、「では文化とは何だ?」「発展とは?」とくる。また、著作権をユーザーの側から考える最近の潮流を汲んだもの。けれど米国西海岸系にありがちな理想論アナーキストではなくて、問題提起であるときちんと言明するので、バランスが取れていると感じたし、読んでて独善的な嫌な感じはしない。著作権はそもそも広まらないと商売にならないコンテンツを制限する、という矛盾をはらんでいるので、正解はきっと永遠にないが、その時代ごとに議論することを放棄してはならないのだろうと強く感じた2021/09/24
KakeruA
2
とてもおもしろかった。改変を重ねすぎて複雑すぎる著作権の背景を解きほぐしながら、権利がどこにあるのか所在を探る。人権的な著作権の扱いを批判しながら、誰もが創造に参加し、集合として文化が生まれ、搾取されない構造が生まれるフェアカルチャーにこそ、文化の発展が見られると本書は主張する。DAOや脱中央集権的なプラットフォームが求められる今、この視点は非常に示唆的だ。つくる/直す権利とともに、生計手段として行為にどのような対価が支払われるべきか考えてみたい。2022/04/28
K
1
(021.2)著作権の保護というとどうしてもユーザーには不利になると常々感じてきた。囲い込み(志賀直哉)ではなく「思わぬ場所に自分の詩が」(室生犀星)のほうが器がでかく私は好ましい。ジブリの事例も記憶にある。著作権法が難解で実効力がないのは、ネット上に自由に著作物を上げている大勢の人たちの意識が素地にあるし、それを正す気もない著作者(群)のたまものだと思う。この本にはオープンアクセスがいかに文化に寄与したか書いてあるが、著作権者とユーザーの落としどころを見つけることがまず重要だということはわかる。2022/01/24
takao
1
ふむ2021/12/08
nobuharuobinata
0
作品はそれにふれた者の体内(脳内)に取り込まれて次の作品を生み出している。本書はこうした一連の過程における作品にふれた者の権利に焦点をあてたもの。著作権を人権とする見解を批判しつつ、作品利用権を人権とする視点を展開しようとしている。同著者の『〈海賊版〉の思想』(みすず書房)と同様に「海賊版」(広義、法令違反のない模造等も含む)が文化の発展に仕えた様子も描かれている。2021/12/22