内容説明
昭和二十年―終戦間際の北海道・室蘭。逼迫した戦況を一変させるという陸軍の軍事機密「カンナカムイ」をめぐり、軍需工場の関係者が次々と毒殺される。アイヌ出身の特高刑事・日崎八尋は、「拷問王」の異名を持つ先輩刑事の三影らとともに捜査に加わることになるが、事件の背後で暗躍する者たちに翻弄されてゆく。陰謀渦巻く北の大地で、八尋は特高刑事としての「己の使命」を全うできるのか―。民族とは何か、国家とは何か、人間とは何か。魂に突き刺さる、骨太のエンターテイメント!
著者等紹介
葉真中顕[ハマナカアキ]
1976年東京都生まれ。2013年「ロスト・ケア」で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、作家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
419
葉真中 顕は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。北海道戦中少数民族ミステリ、骨太の作品で読み応えがありましたが、著者の割にはインパクトが薄いかも知れません。国家、民族、宗教、全てが共同幻想という考え方には同感です。2018/09/22
ウッディ
315
終戦間近、製鉄の町室蘭には、第二の太陽と呼ばれる溶鉱炉があり、戦局を打開する兵器の開発が行われていた。アイヌ出身の特高刑事・日崎は殺人事件の真相を追う。アイヌ、朝鮮人への差別と危険思想への弾圧など重いテーマを貫きながらも、網走刑務所の脱獄や民族を超えた友情や意外な真犯人などエンターテイメント性も十分な骨太ミステリーで、読み応えがありました。馴染みのなかったアイヌの生活や戦時中の北海道の事などを描きながら、500頁以上の大作を読ませてしまう葉真中さんの筆力は流石でした。面白かったです。2019/04/30
nobby
315
敗戦間際の北海道を舞台に、アイヌや朝鮮への偏見という重いテーマながら一気に500頁を読ませるのはお見事!室蘭にある2つの太陽、一つはお天道様、二つ目は工場の五本煙突の大型溶鉱炉。加えて明らかになる第三の太陽の真実には思わず天を仰いだ…特高や憲兵と、虐げられながらも内地で生きる鮮人・土人が交錯しながら、“スルク”という脅威の存在と凶行阻止に奔走するのを夢中で追った。終盤その正体明かされる場面は一瞬我を忘れ愕然とするばかり!ラストでの荒涼はまさに『凍てつく太陽』、茫然としながらもホッと出来る結末には救われる。2018/09/18
Yunemo
295
今までの著者作品としては、なかった切り口ですね。先ずは壮大さ、背景にある民族、国家、人間とは、との命題が如何なく記され、また室蘭の描写に現実感が漂い。戦時中の特高警察と憲兵隊の関係、どちらも今想うに悪評ばかりが、これは拷問が日常茶飯事行われていた結果なんでしょう。本作、当時どうだったか、アイヌと朝鮮をほぼ同格として描いてます。いろんな意味での言論統制、確かに。事件の背景が複雑に見えて、でも結局はこんなもん。使命を全うしようとする気概とそれに比しての悪行、いつの時代でも虚しさばかりが。じっくりと読み解いて。2019/11/24
しんたろー
275
葉真中さん3冊目。『絶叫』も『W県警の悲劇』も楽しめたが、これは凄かった!終戦間際の室蘭を舞台にした物語は、主要登場人物らが躍動してグイグイ惹き込み、先が読めない展開が手に汗を握らせる。不勉強だったアイヌに関する記述も興味深く、その生き方に感銘を受けた。ミステリとしても「こいつだったのか!」という驚きもあり、社会派エンタメの見本と言える。国家や民族に対する主張も、服装に喩える判り易い台詞で表現していて素直に頷けた。重いテーマではあったが、希望あるラストで読後感は好くて、今年のMY BEST入り決定👍2019/05/05