出版社内容情報
新興感染症や生活習慣病リスクに対し公衆衛生的介入の必要性が現れてきた近年、従来の自己決定権重視型の生命・医療倫理学ではうまく議論できない状況が生じている。本書は英米圏の動向や日本の歴史を参考にしつつ、公衆衛生活動や政策が固有に持つ倫理的・思想的諸問題を明確に示し、新たな理論的枠組みを提示するものである。
内容説明
公衆衛生活動や政策が固有に持つ倫理的・思想的諸問題を明確に示す。疾病予防と健康増進を目指す医療政策を議論する枠組みとは。
目次
1 総論(公衆衛生倫理学とは何か;公衆衛生の歴史:欧米;公衆衛生の歴史:日本(1)概論
公衆衛生の歴史:日本(2)主な関連法規
公衆衛生活動と法)
2 政治哲学的基礎(公衆衛生政策の政治哲学的基礎;政治哲学の諸理論)
3 各論(感染症対策;疫学研究の倫理;健康増進;健康格差;災害時における公衆衛生倫理)
著者等紹介
赤林朗[アカバヤシアキラ]
1958年生。1990年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京大学大学院医学系研究科教授
児玉聡[コダマサトシ]
1974年生。2002年京都大学大学院文学研究科博士課程修了。京都大学大学院文学研究科倫理学専修准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Schuhschnabel
5
再読。色々なところに目配りがされていて、改めてよくできたテキストだと思う。何と言っても、主要な政治哲学上の立場を100ページ弱で網羅しているのがすごい(けど、間違いなく一読しただけでは頭に入らないので、ちゃんと読もうとしたら副読本が必要)。この本の実践編が『COVID-19の倫理学』になるのだろうか。これから読んでみて私の予想の当否を確かめてみようと思う。2022/10/28
Schuhschnabel
1
「国や自治体が実施する様々な健康に関する政策が倫理的に許されるか」を検討する公衆衛生倫理について日本で書かれた最初の本。"国家のパターナリズムvs.個人の権利"という対立は,生命倫理学者だけで片付けられる問題ではないので,社会科学の分野の専門家を積極的に巻き込んでいく必要があるだろう。2017/01/08
きぬりん
0
前半は総論として公衆衛生倫理とは何か、公衆衛生の歴史(欧米/日本/日本の関連法規)、公衆衛生活動と法を、中盤は政治哲学的基礎として現代政治哲学の諸理論(現代リベラリズムとその対抗理論)を概観。後半は各論として感染症(パンデミック対策)、疫学研究、健康増進、健康格差にまつわる倫理的問題、最後に東日本大震災にまつわる倫理的問題が取り扱われている。集団全体の疾病予防・健康増進を目指す公衆衛生活動は、ともすれば個人の自律・自由との衝突の契機を孕んでおり、両者の調停が主な論点として浮上していること(→コメント欄へ)2023/03/08