出版社内容情報
東洋の港で船長番として働く男を暗い過去が追う。『闇の奥』のコンラッドが人間の尊厳を描いた海洋冒険小説の最高傑作。
内容説明
「僕は飛び降りた…らしいです」。アラブ人巡礼者八百人を残して沈没寸前の船から離れたイギリス人航海士ジム。噂を逃れて東洋の港を転々とする彼は、やがてスマトラの辺境で指導者となる。『闇の奥』の著者が、語り手マーロウを介して壮大なスケールで描く名誉の喪失と回復の物語。再評価著しい傑作長篇を最高の翻訳で。
著者等紹介
コンラッド,ジョゼフ[コンラッド,ジョゼフ] [Conrad,Joseph]
1857年、ロシア領ポーランド生まれ。16歳でフランス商船の船員となり、28歳でイギリスに帰化。1895年『オルメイヤーの阿房官』で作家デビューののち、『闇の奥』(99)や『ロード・ジム』など、海洋小説を発表
柴田元幸[シバタモトユキ]
1954年、東京生まれ。アメリカ文学研究者。著書に『アメリカン・ナルシス』(サントリー学芸賞)、『生半可な學者』(講談社エッセイ賞)など。訳書に、トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』(日本翻訳文化賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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tyfk
13
書かれた時期は『闇の奥』と『ノストローモ』の間で、両作品と共通する設定もあるけど、なぜこんなに長くなったのか、そこがよくわからない。翻訳の文章そのものは読みやすいのだけど、中間のところで、なぜ?がずっと続いて、ここらで挫折しそうになる。訳者の柴田元彦には、もっと作品の内部にふむ込んだ読みの解説を書いて欲しかったが、残念ながら文学史における位置付けの話がほとんど。各章の最後の文が独特で特徴的なのだけど、意味がとりにくくて難しい。訳文がきれいすぎるのかなとも思う。2024/04/13
hasegawa noboru
12
一介の船乗りというか、だからこそ人間としてごくまっとうな誇りがある。自ら犯してしまったと認める過失によって失われた自己をどう再生させたか。単なる海洋冒険小説、あるいはスマトラの奥地の村にやって来て何事かなして帰る白人の(村娘とのステレオタイプな愛の形などリアリズムの観点からいえば突っ込みどころは多々ある)植民地文学の一言で片づけてしまえなくはないのだが、言葉を尽くして長々と語られる愚直なまでのロマンチスト(理想主義者)ジムの物語はそれらとは類を異にする立派なモダニズム小説なのだ。読むに疲れたが。 2021/06/12
yu
9
長く、饒舌で、しかも視点が語り手マーロウに縛られるせいか途中まで読み進めるのが正直しんどかった。けれど、耐えた先にはしっかりとご褒美が待っている。そんな感じ。 まだ世界が若かった頃、中年期や老年期を迎える前の幻想に溢れていた時代。エキゾチックな舞台設定と、どこか神話っぽさを感じる展開。何よりも主人公ジムの造形が素晴らしい。無邪気で、楽天的で、誇り高く、弱さと強さが共存している。読み進めながら、なぜか「我らの時代」の頃の初期ヘミングウェイが描いた繊細な主人公たちが浮かんだ。2021/08/16
ひでお
8
コンラッドの大作です。著者自身が船員の経験があるからか、船や海洋の描写はリアリティがあります。しかし本作は単なる冒険ものではありません。主人公ジムの名誉と尊厳に対する葛藤のお話でした。ジムははっきり言って、ちょっともやもやするはっきりしない性格に見えますが、名誉を重んじる古典的な性格がそうさせているのでしょう。著者の考えの反映なのかな。語り手マーロウの哲学的というか分析的な語りと相まって、ジムの心のゆらぎが読み手に伝わってくるようでした。2023/12/13
まふ
8
大冊だが面白かった。いわゆる海洋冒険小説と思われていた小説。青年ジムの理想と異なる現実の巡礼者置き去り事件の有罪判決者となった負い目をずっと抱えて転々と東南アジアを身を隠して暮らすその頼りなさ、揺らぎ、不安が実によく描かれていた。心の葛藤が丹念に叙述されて猛烈に納得感が湧いてくる。コンラッドはポーランド人として生まれ、ロシア語、ポーランド語、ドイツ語、フランス語、英語を学び船乗りとなって20年後に英国に帰化した、という変わった経歴の持ち主。訳がうまいためか、極めてスムーズに読める作品であった。2020/06/02