出版社内容情報
文化大革命後の中国。一人の政治犯の処刑をめぐって、否応なく歴史の闇にのみ込まれてゆく市井の人々の悲哀を描き出す。
イーユン・リー[リー,Y]
1972年北京生まれ。北京大学卒業後渡米、アイオワ大学に学ぶ。2005年、短篇集『千年の祈り』でフランク・オコナー国際短編賞,PEN/ヘミングウェイ賞など数々の賞を受ける。現在カリフォルニア州在住。
篠森 ゆりこ[シノモリ ユリコ]
金沢生まれ。出版社勤務を経て渡米。ミルズ・カレッジ英米文学修士課程修了。訳書に、イーユン・リー『千年の祈り』『さすらう者たち』『黄金の少年、エメラルドの少女』『独りでいるより優しくて』など。
内容説明
文化大革命後の中国。一人の若い女性が政治犯として処刑された。物語は、この事件に否応なく巻き込まれた市井の人々の迷いや苦しみを、繊細に丹念に紡いでゆく。ごく普通の人々の嘘や欺瞞、密告などを描きながらも眼差しは優しく、庶民の心を歪めてしまった中国の歴史の闇が、説得力をもって描かれる。
著者等紹介
リー,イーユン[リー,イーユン] [Li,Yiyun]
1972年北京生まれ。北京大学卒業後、アイオワ大学大学院で免疫学の修士課程修了。その後、同大学創作科で学ぶ。2005年『千年の祈り』で作家デビューし、多くの文学賞を受賞。カリフォルニア州在住
篠森ゆりこ[シノモリユリコ]
金沢生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
153
イーユン・リーの長編小説です。短編小説集はいくつか読んできましたが長編は初めてです。中国の文化大革命後の話ですが、政治的な意図よりも市井の人々がどのような考え方を持っていたのかどのような生活をしていたのか、を克明に描いています。また人間というのは必ずしも単純な線引きはできないということがよくわかります。やはりこの作者の作品は非常に私にとっては印象深いものです。2016/11/27
アン
59
主人公は、文化大革命後の中国で行き場を「さすらう者たち」。国家権力により統制された社会で、反革命分子とし処刑された若い女性の家族と関わりを持った人々。未来を生きる為、善悪の狭間で苦悩する姿をありありと精緻な筆致で描いています。平穏な暮らしを続けたい市井の人々のささやかな愛情や願いさえ、隣人の密告や監視の目により歪んでしまう現実…。心の拠り所を求めさすらう魂。「私は娘ではなく、妻でも母でもない。私は私だ。今日は最後まで私自身でいよう。」悲しい物語ですが、静かに心に残る一冊です。 2019/02/20
nobi
57
声域で言えばアルト、でリーは物語る。拡声器からは『熱愛祖国』が流れ、次々生まれる赤ん坊を親は番号で呼ぶ。文革後の一地方都市。人々の生活、感性は遠く隔たっているはず。なのに一人一人に感じる親しさは何なのか。かつて紅衛兵となった娘に吊し上げられた顧師。彼と共に私も朝の町に出、ゆで玉子を売る少女の指の霜焼けを見る。凱と同じく夫の寒の愛情表現を疎ましいと思い、妮妮が舐める告知を貼る小麦粉の糊を甘く感じる。彼らが薙ぎ倒されてゆく第3部は立ち竦むしかないが、第1部第2部のゆっくり回転を始めた物語はきっと熟成を続ける。2017/02/11
aika
51
大人も子供も愛する大切な人を、自分を守るために誰かを陥れていく。永遠に続く悲劇の連鎖にあっても、人は笑い泣き怒り、悲しみを湛えて生きていくしかない、生きていける。「反革命分子」として公衆の面前で処刑された女性の死を起点に、同心円状に広がる人々の人生。娘の名誉回復のために無力さから抜け出し目覚めていく母とそれが認められない父。立派な地位を捨て彼女と同じ道を辿る凱。体制の外にいる八十と妮妮。それでも童が、そこにいた小さな少年は物語の光でした。街を出たさすらう者たちの後ろ姿に、前途に、明かりが注がれますように。2019/10/13
南雲吾朗
38
中華人民共和国の文化大革命後の話。とにかく重くて辛い物語。しかしページを繰る手が止まらない。 反革命分子として処刑される若い女性とその周囲を取り巻く人々の日常が描かれている。 ひどい生活環境の中、逞しく生き抜く人々。中華人民共和国民の力強さを感じる。しかし、あらゆる人々が最後まで救われない…。重く、つらい小説だが、それでも読んで良かったと思わせる本である。 2018/04/28