内容説明
本書は、作家デュラスの真の処女作というべきものであり、のちに『愛人』『北の愛人』とともに、深化・発展させられてゆく仏領インドシナでの自らの少女時代の体験を素材としたデュラス流の「失われし時を求めて」をかたちづくる傑作である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
A.T
26
1930年頃のフランス統治下の植民地全盛時代… 展開するドラマ以上に読み応えがあったのは、エレガントな高級住宅区域、現地人の場末町との中間にある白人区域(これがデュラスの家族が属していた地域)の実態。土地管理事務所の役人の腐敗によって一家は使い物にならない海岸の土地を掴まされ、移住の半年後、農場の稲を満ち潮の海水に沈められてしまう。翌年バンガローを抵当に入れた借金で防波堤を建設するが決壊。母の怒りを浴び続けた娘は、破壊的なヒロインを描き続けることになる。前作「静かな生活」の心理劇とは異なる自伝的小説。2024/02/10
ネムル
19
『愛人』を読んでからの再読。植民地のインドシナで官吏に騙されて潮まみれの糞土地を掴まされた親子一家。現地の最下層フランス人・山のように生まれ山のように死に、墓もなくただ埋められていく現地人・さらにはゴムで儲けた成金バカ。デュラスの実体験とはいえ、ボスコロ文学としてまずシチュエーションが面白すぎるな。とはいえ、ただ死んでいくだけの子の悲しみは強く描かれず、ド貧民にはドド貧民に意識を向ける余裕はないのか、などと身も蓋もないまとめ方をしたくもなったが、後の『ヒロシマ・モナムール』を観るにそう単純ではあるまい。2020/04/25
白のヒメ
10
仏領インドシナ海(現ベトナム)に入植した極貧のフランス人家族、母親、息子、娘の物語。金持の醜い男が遊びの為にその美しい娘に近づき、また同じく金持の有閑マダムが戯れにその美しい息子に近づく。「金」というものの前では、その母、兄妹の人間としての自尊心は消えてしまった。先の見えない混沌とした息苦しい貧困は、どんなに元が善良な人間であっても、人間性を捻じ曲げてしまうのか。確かにそこから逃げ出すにも、当時の親子の状況では、自力では無理だった。色々考えた。「貧困の中で正しく生きること」は人間の永遠の課題なのだろう。2013/08/11
海
7
著者の過去を土台にした小説。海と森にかこまれた仏領インドシナで、貧困と死を近しいものとして暮らす母、息子、娘。タイトルの「太平洋の防波堤」は、毎年の高潮で水浸しになり収穫ができない農地を守るため母が建設した。数か月をかけて完成した防波堤は、高波によりたった一晩で壊された。知らぬ間に蟹が防波堤を食い荒らしていたために。もう笑うしかない、悲惨すぎて。貧困から逃れるには、自分を連れ出してくれる財力を持つ男または女を待つしかない。でもまだいい、その意志があるうちは。意志を失くしたとき人は死んでいく。2016/12/04
かみしの
6
不良でイケメンな実兄に恋した少女が糞童貞と処女厨に迫られながらも、最後はお兄ちゃんの幻想を追い求めてヤンキーとしてしまうお話。と言ってもいいけれど、やっぱり主題は家を出るということだと思う。男は女(新しい家)を作ることで、女は性を自らのために用いることで、家からの脱出をはかる。一部では母に殴られるままになっていたシュザンヌが、二部では制すようになる。男に必要とされるようになることが、成長を表しているわけだ。太平洋の防波堤とは、母の耐えてきたものであり、ジョゼフ自身(p249)とある。傷と生の物語。2016/03/19