出版社内容情報
能楽をモチーフとした、著者最愛の作品集(「弱法師」「卒塔婆小町」「浮舟」を収録)。河出文庫版の新規あとがきも掲載。
内容説明
百本書いたら、僕のものに―墓地に住み着いたホームレスの老婆が語った懺悔めいた告白「卒塔婆小町」。二人に愛された挙句どちらも選べず破滅に向かう女性の悲劇を娘の視点から描いた「浮舟」ほか、能をモチーフに現代の不可能な愛のかたちを研ぎ澄まされた静謐さと激情で美しく繊細に紡ぎあげた珠玉の現代能楽集三篇。河出文庫版あとがきも特別収録。
著者等紹介
中山可穂[ナカヤマカホ]
1960年生まれ。早稲田大学卒。93年『猫背の王子』でデビュー。95年『天使の骨』で朝日新人文学賞、2001年『白い薔薇の淵まで』で山本周五郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のあ
20
愛についての短編集、すごく読みやすかった。 重く暗い愛なのに醸し出される切実さと儚さが純白の愛にみえる。 独特な読み応えと読後感でした。 卒塔婆小町が特に好きでした。2022/06/13
ア・トイロッテ(マリポーサとも言う)(各短編の評価はコメントで)
18
★★★★★10 中山可穂の作品を読んでいると、本当に魂を削っているようだと実感する。著者のあとがきに、「かなわぬ恋ばかり書いたのは、当時の自分がかなわぬ恋をしていたからに他ならない」とある通り、この作品は一種の私小説とも受け取れた。特にラストを飾る「浮舟」は著者の心情が作中の薫子に重なるようであり、ラストに近づくにつれて痛々しさを感じた。収録の三編はどれも心に対する影響が大きすぎた。傑作というほかない。2023/03/14
バーニング
3
感想は色々あるが、まずいまの自分に正に必要な小説で、素直に読めてよかったという気持ちが大きい。3つの中編はどれも魅力的だが、中山可穂のエッセンスが凝縮された「浮舟」がもっとも優れていると感じる。元は源氏の一篇である浮舟を中山可穂が翻案するとこうなるのか! と興奮し、そしてドキドキしながら最後まで読んだ。恋愛や性愛を通してヒューマニズムや人生を書こうとしたのは、紫式部にも通じるところがありますね。2023/08/12
ゴトウユカコ
3
苛烈な愛は、ときに人を殺すものだ。それが本人たちにとって幸福なのかどうかはわからないけど、その激情のゆるがない強さは、とても眩しい。眩しい分、影も、死への近さも濃いように思える。能楽に題をとった3編の中編集だが、この作者の恋愛は、同性同士もあり、恋愛小説といってもすごく根源的な、本能に近い渇望みたいなものを描き出す。これまでのセックス描写ありきを封印しての今作ということだけれど、その行間からとにかく性愛が匂い立つのもすごい。少年と大人の男、作家の男とレズの編集者、男女の双子と1人の女。組合せも唸らせられる2022/05/29
湊-みなと-
3
美しい…とにかく美しかった。「愛する」ということ感情だけではなく、人間の深いところに刻まれている本能というか、魂を描いていたように感じた。(語彙力なくて上手く表現できないが)また、「愛」という形には一括にできないほど様々な形があるのだと改めて実感。切なく、苦しく、愛おしく、艶めかしく…様々な感情が読んでいて湧き上がってきた。何気ない描写でエロス感じた作者の筆致の凄さよ。能作品をモチーフにしているらしいが、原作知らなくても楽しめる。どの作品も好きだが、「弱法師」が好き。2022/05/04