出版社内容情報
美貌と才気で人気を博した女形・澤村田之助。病で四肢を失いながらも江戸歌舞伎最後の花を咲かせた生涯を描く代表作、待望の復刊。
皆川 博子[ミナガワ ヒロコ]
1930年生まれ。『壁 旅芝居殺人事件』で日本推理作家協会賞、『恋紅』で直木賞、『薔薇忌』で柴田錬三郎賞、『死の泉』で吉川英治文学賞、『開かせていただき光栄です』で本格ミステリ大賞を受賞。著書多数。
内容説明
絶世の美貌と才気、そして妖艶極まる頽廃美で絶大な人気を博した女形、三代目澤村田之助。江戸から東京へと世情がゆれ動く中、不治の病に侵され四肢を失いながらも舞台に立ち続けた、壮絶なる人生とは―。こよなく淫蕩、こよなく凛乎、こよなく高慢。稀代の役者の芸への執念を流麗に描き上げた傑作長篇。
著者等紹介
皆川博子[ミナガワヒロコ]
1930年、旧朝鮮京城市生まれ。73年「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞後、ミステリ、幻想小説、時代小説、歴史小説等、幅広いジャンルで創作を続ける。85年『壁 旅芝居殺人事件』で日本推理作家協会賞、86年『恋紅』で直木賞、90年『薔薇忌』で柴田錬三郎賞、98年『死の泉』で吉川英治文学賞、2012年『開かせていただき光栄です』で本格ミステリ大賞を受賞。13年にはその功績を認められ日本ミステリー文学大賞、15年文化功労者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
115
妖艶な魅力を放っていたとされる女形・澤村田之助の生涯を描いた小説。役者として才気を発揮していた最中、病により四肢を失うという悲運、それでも彼は舞台に立ち続けたという。歌舞伎の舞台の煌びやかさと対比するかのように語り手・三すじの口調は淡々としている。それがむしろ写実的な効果を高めて、読み手に不穏な緊張感がもたらされ続けた。その三すじは自分でも判別できない屈折した感情を抱えてしまう。妬みからの憎悪が思わず沸き起こるも執念と凄艶さに愛しみを持たずにおれない存在。それが田之太夫の姿であることが深く印象付けられた。2020/10/26
aquamarine
74
実在の名女形、三代目澤村田之助。脱疽で四肢を失いながらも舞台に立ち続けた彼の生きざまが、幼少期から見つめ、のちには弟子として傍らから離れなかった三すじの視点で語られます。文字の間に芝居の艶やかな仕草がひらりひらりと見えてくる言葉の選びの見事なこと。一緒に舞台を楽しみながら三すじとなって田之助に寄り添い、後半は一緒に痛みを感じながら壮絶な人生を見届けました。一見必要のなさそうなプロローグとエピローグが読後とても響いてきて、皆川さんらしくてとても好きです。まさしく花と闇、皆川さんだからこその一冊だと思います。2017/11/18
のり
67
江戸末期に女形として実力・人気を誇った三代目「澤村田之助」と弟子として影となり支えた「市川三すじ」。幼少期から天才肌だったが、気性が荒く口も悪い。しかし芸に対しては真摯に向き合い研鑽を積んだ。後の九代目「市川團十郎」に対して大根呼ばわり。しかし一目置く存在でもあった。田之助は尊敬もされたが、敵も多かっただろう。破天荒の報いではないが奇病に罹り四肢が…それでも懸命に舞台に立ち続けたが、まさかの終焉を迎える事に。上に立つ人はこの位個性が際立ってないと努まらない世界なのか?2021/02/13
佐島楓
56
おそろしいと思われるものほど、うつくしい。そんな種類の美を描くのが皆川先生の本領なのだと思う。2016/12/09
mii22.
54
江戸が東京に変わり近代化が進むなか、歌舞伎役者の世界も変化していくが、そのなかで最後の江戸歌舞伎役者ともいえる妖艶な立女形三代目澤村田之助は大輪の花を咲かせやがて腐爛していく。歌舞伎の世界をよく知らない私を、華やかな舞台とその裏での役者同士の激しい闘争や嫉妬、色と金にまみれた日常が朧気ながらも肌で感じとれ、妖しげな魅力に引き込んでいく皆川さんの筆力は素晴らしい。田之助を取り巻く、五代目尾上菊五郎、九代目市川團十郎、絵師歌川国芳の弟子月岡芳年などの人物も物語に彩りを添えている。2017/01/06