内容説明
一九六八年、暴力団員を射殺し、静岡県・寸又峡温泉の旅館で一三名を人質にして篭城した劇場型犯罪・金嬉老事件。ある刑事が発した民族差別発言への謝罪を求めたが、マスコミはこの事実を無視し、犯人を「ライフル魔」と煽ることに終始した。全ての人間が人間らしく生きることを希求し続けたジャーナリストが、差別と抑圧の中から、哀しき犯罪者の声を拾い上げる。犯罪ノンフィクションの昭和遺産。
目次
引金
挑戦
結婚
母親
憤激
監禁
辛酸
前歴
人質
報道
要求
説得
逮捕
著者等紹介
本田靖春[ホンダヤスハル]
1933年、旧朝鮮・京城生。55年、読売新聞社に入社。71年に退社し、フリーのノンフィクション作家に。2004年、死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
安南
43
暴力団員2名を射殺、静岡寸又峡の温泉旅館に人質13人を盾にライフルとダイナマイトで武装した金嬉老の敵とは何だったのか。人質と引き換えに望んだのはただ一つ、差別的発言をした刑事の公での謝罪だった。戦後日本の民族差別、マスコミの在り方など考えさせられた。が、それ以上に想像を絶する辛苦を舐めながらやさしく逞しい母親オモニの存在に感動した。オモニの惜しみない愛に包まれて育った嬉老は粗暴ではあるが愛嬌のある憎めない人物に思えてくる。服役後、英雄として帰韓するも、再び犯罪を起こす。不謹慎だけど呆れて笑ってしまった。2015/06/23
gtn
28
民族問題が犯行動機というのは、金嬉老の後付けの言い訳ではないかと以前から疑っていたが、家族ともども受けてきた耐えがたき差別や、ある警官の蔑視発言に、犯行前から激怒していたことを知り、一理はあったのだと理解。だが、仮釈放後の行状により、自ら差別への戦いを歪めてしまった。なお、人質の一部に自分のシンパを作ってしまうなど、客観的には魅力ある人物だったのだろう。著者が金に全面的に肩入れしていることからも分かる。2021/04/28
ステビア
17
やりたいこと、言いたいことはよくわかったがちとくどい。もう少しストレートに書いてもよかったんじゃないか。2014/07/30
塩崎ツトム
12
1968年の金嬉老事件を、金嬉老本人、その家族、被害者、監禁にあった人々、そして警察、マスコミそれぞれの立場から追い、かの事件が日本社会に突きつけ、そして結局見て見ぬふりで終わってしまった在日コリアンへの不当差別問題を告発する。金嬉老は英雄か単なる人殺しか、現在でも意見は分かれるが、ぼくには出自により不当に傷つき、そしてその傷を癒せないまま社会に投げ出された、一個人としか言いようがない。これはぼくやあなたの物語でもある。2018/12/05
BLACK無糖好き
12
1968年の金嬉老事件の背景にある問題を、個々のファクトを積み上げながら次第に浮かび上がらせていく手法はお見事。本書は警察権力側につくメディアの姿勢と民族差別問題が大きなテーマ。◆そもそも差別意識は集団化心理と密接に結びついているのではなかろうか?人間は他人を差別し多数派側にいないと精神的安定が保てないのか?自分に自信がないのか?自信がないから群れたがるのか?個が確立されていないのか? 精神の貧困の裏返しとも見える。何れにしても本書からは日本人社会の浅ましさが強く感じられる。 2016/10/25