内容説明
旅の可能性を考えない定住者は現実を変える力はなく、定住の意味を知らない放浪者は頽廃に沈むだろう―旅の倫理と野生の哲学を探求する詩人思想家の不滅の名著。土地の精霊を先人たちの言葉と彷徨とともに呼び覚ましながら、砂漠と狼たちを讃える輝かしく美しい詩と思考の奇蹟。
目次
コヨーテの歴史
1 風の眼の部族(このからっぽな高原で;歩み去るチャトウィン ほか)
2 ふたつの熱帯とふたつの手紙(タルシーラの回廊とエグゾティシズムについて;クジラが旅をする ほか)
3 心が住みつく地勢(アルバカーキの友人;旅の達人、あるいは中国的な猿 ほか)
4 光の地帯、新しいメキシコ
ビブリオグラフィー―この本に住みついたテクストたち
著者等紹介
管啓次郎[スガケイジロウ]
1958年生。詩人、翻訳者、比較文学者。明治大学大学院理工学研究科新領域創造専攻ディジタルコンテンツ系教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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スミス市松
27
ホノルル、アルバカーキ、シアトルを拠点として書かれた、クレオリティ(言語と文化の混合性)とネイティヴネス(土着性)絡み合う北米西部にまつわるエッセー。地に張る根のない人間が目の前に広がる圧倒的な風景に対して何を語ることができるのか。言葉によって人と土地はつながることができるのか。管のまなざしはその一点に向けられている。自らの未熟な外国語と瓦解する母国語の狭間で、アメリカ各地の風景と他者に晒されて紡がれる彼の言葉は新しくつくりなおされている。つまり、人の心と土地の風景をふたたび結びつけるための言葉として。2018/01/15
Tenouji
11
体感的な経験を織り込んだ語り口。そのスタイルを菅氏から学んだような気がするが、その妙薬さえも、今は、スタバ的なものに変化したような気がする。2018/11/04
うた
11
NYにいた時、語学学校のトレーナーにここだけがアメリカだと思ってはいけないよ、と言われたことがある。WIに移り、さもありなんと思ったものだけれど、アメリカというものは細分化し始めるとキリがないようだ。いわゆるネイティヴアメリカンと彼らの土地、言語をテーマしたエセー集。私はエセーよりも冒頭のコヨーテの詩のほうがいつまでもついてくる月のように意識に残っている。2015/03/20
rakim
11
ある土地、ある時間に、出会った人に、思索に、自己をどう向き合わせていくか。疾走の高揚と孤独は胸を撃ちます。この本を読んでいる途中に、浪漫派詩人の伊藤静雄の「八月の石にすがりて」の詩のなかの「青みし狼の目を、 しばし夢みむ」という段を思い出しました。狼と対照的な生き方をしたのが蝶なのか。さしずめ私自身は、地面が地面であるかどうかを確かめながら舞っている蝶なのかもしれない、とすら思う。近視眼的な蝶であっても、思索への扉は開けていたいと思う。きっと読み返すであろう一冊。2015/03/17
おおかみ
10
旅への、土地への、野生への思索そして詩作。それは地理的にも言語的にも縦横無尽で、リリカルでありながらも――むしろリリカルであるからこそ、エスニック・マイノリティについて、人類史についての問題提起が胸に響く。“まだ実現されていない、まだかたちを知らない異質性を、強く激しく求めること。ぼくらはだれもが、そんなエグゾティシズムの誘惑にとりつかれたまま、地表を南に東にと、今日も動きまわっている。いったい何をめざして?(134頁)”2012/03/24