内容説明
17歳も年上の兄・朋彦に引き取られることになった史生。兄が教師を勤める学校に転校した彼は、そこで朋彦を慕う二人の少年に、少々手荒な歓迎を受ける。朋彦を自分だけの兄にしたいのだという彼らに、次第に史生は心を通わせるようになって…限られた時を生きる十四歳の少年たちの心の交流を描いた、感動の名作。
著者等紹介
長野まゆみ[ナガノマユミ]
1959年、東京都生まれ。88年「少年アリス」で第25回文藝賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
47
きらきらした瑞々しさあふれる作品です。少年たちの硬質な感じが物語を美しくしていると感じました。長い間会っていなかった史生と朋彦の兄弟、朋彦を慕う椋の3人の関係が好きです。本当のことが分かったとき、朋彦の優しさの意味が明らかになり成程な、と。その裏で病気と闘いながら生きることに必死の密に感動してしまいます。少年たちが皆何処か素敵なんですよね。椋が史生に向けた「好きだからさ」の一言にはかっこよさを感じずにはいられません。14歳という限られた時間の心の交流に癒されました。2014/10/06
なつ
44
長野先生の王道、思春期の少年達の甘酸っぱい青春の物語。兄の勤務する学校に秋から転校した史生。そこで椋と密(たかし)という少年に出会い・・・ 14歳特有の感情の揺らぎが瑞々しく、何度も共感しました。嫉妬や羨望といったヤキモキする心境が繊細に描かれていると思います。最後のシーンがとても好きです。2021/09/24
ダリヤ
44
わたしも家庭の事情で、秋から新学期をむかえたことがある。長い夏休みのあと、はじめて歩く通学路に校舎の中に、はじめて顔をあわせる同級生たち。あの頃のわたしが味合わなかったうつくしくみずみずしい新学期を体験させてもらった。あの頃とおりすぎたうつくしい季節や風景が目の前に浮かぶほど、長野さんが表現する世界の中は病みつきになりそうなほど心地よい。朋彦が史生のために作ってくれた、肉いり玉子の揚げものがなんだかとてもおいしそうでしかたなかった。2015/12/10
モモ
39
17も歳が離れた兄と暮らすため転校することになった史生。路地が入りくんだ町で道に迷い、一人の同級生と出会う。長野さんらしい繊細な文章だが、急須でお茶を入れて友だちをもてなすなど、少年たちがあまりに老人くさく、感情移入しづらかった。天然理科少年を彷彿させる内容。天然理科少年の方が好みでした。2020/04/09
*蜜柑*
31
夏休みが明け、見知らぬ土地の中学校に転校した史生。それまで別々に暮らしていた兄に、この秋から引きとられることになったからだ。迷路のように入り組んだ美しい土地で、史生は二人の少年に出逢う。14歳という何者でもない年頃の葛藤を、みずみずしく描く。秋から冬にかけての物語なので、夏に読むと、あの凛として澄みきった空気が恋しくなる。子どもと大人の境目だけに味わう杞憂が、より一層、少年たちを美しく儚い生き物に仕立てあげる。長野作品に共通する兄の存在。兄もまた、謎に包まれた美しい生き物であり、読者を魅了してやまない。2015/07/25