内容説明
終戦直後、パリコミロクマ(呼び込み易者)をしていたころの日常を描いた「やくざアルバイト」、戦場での兵隊と上官との悲惨な関係「赤鬼がでてくる芝居」、労働争議の中の人間模様「その十日間のこと」等、同人誌時代の田中小実昌の多彩な創作活動を示す貴重な作品集。後のコミさんの作品世界はここに凝縮されていた。
著者等紹介
田中小実昌[タナカコミマサ]
1925年、東京都生まれ。東京大学文学部哲学科中退。軽演劇、将校クラブの雑役、香具師などの職を転々とした後、翻訳、文筆業へ進む。1979年、第81回直木賞と第15回谷崎賞を受賞。2005年、ロサンジェルスにて客死
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感想・レビュー
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ウチ●
6
戦場で、戦争の傷まだ癒えぬ世の基地勤めで、ストのピケラインで無為に過ごし、田中小実昌の描く「俺」「あたし」は煩悶を繰り返す。最終的に救いの手は差し伸べられない・・・初期作品群の中には、漠然と将来に不安を感じさせる作風が多かった。が、しかし、所々に登場する女性の言動はあたかもソラリゼーションのように強烈な印象を残していった。このあたり、後の作品に通ずるところ大いにあり。2016/02/29
Mark.jr
2
一見まったりとしているように見えて、意外とセンシティブでメランコリックなのが、著者の持ち味なのかも。2021/05/21
Kinaaaase
0
「なにもおきてはいないのに、いやなにもおきてはならないのに、ただパッシヴにそれをまっているような気持。」p712017/04/29
久守洋
0
同人誌時代の初期作品を中心にまとめられた短編集。突出した作品は無いが、「赤鬼の出てくる芝居」や「生き腐れ」のアイデンティティをめぐる内面描写は面白い。作風にバリエーションがあるが、全ての作品に共通して覆っているのはアメリカの影である。2010/03/21
ちあき
0
いくつかの作品には三人称の生硬さがあって、いかにも初期作品らしい。やっぱりコミさんには「ぼく」の一人称が似あっている。逆にいえばそれ以外の要素(社会の片隅で生きている感覚、ダメ人間であることの自覚など)は後年の作品にも受けつがれているように思った。とくに「生き腐れ」には「ポロポロ」や「アメン父」のような宗教的視点もある。2009/08/21