感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chimako
77
研修会課題図書。読んで良かった。北杜市(北巨摩郡甲村)出身の浅川巧を描いた小説。小説だが作者が新聞記者出身でルポを読むようだった。李朝白磁をこよなく愛し、朝鮮も朝鮮人も日本も日本人も愛した巧の一生はどこまでも見渡せる早春の野原のように暖かで清らか。同じ服を着、同じ言語で話し、同じものを食べ、共に働く。朝鮮を緑にたい強い想いと朝鮮の文化を取り戻す努力。素晴らしい。韓国ドラマが心を打ち、韓国料理がポピュラーになった今も蟠りを持つ人は多い。同じく半島にも日本に蟠りを持つ人は多い。今だからこその一冊だと思う。2023/02/15
ann
69
偶然、やっと手に入れた本書。数年前に愛読していた雑誌の特集で、その存在は知っていたが、初めてその人の写真を見た。「浅川巧」。柳宗悦に影響を与え、後に河井寛次郎、バーナード・リーチ、久野恵一などの巨星と繋がっていく源泉。以前は実はその文学も然る事乍ら、李朝白磁のコレクションや料理に興味をもたらされた「立原正秋」にも自分的に繋がる人物の、走り書きだが、わかりやすい評伝。あまりにも美しい人生を白磁になぞる「浅川巧」の入門書的な。関連本を予約した。「無欲の人」に私は断固傾倒する。2018/01/30
佐々陽太朗(K.Tsubota)
59
小説としてはともかく、物語の主人公・浅川巧の生き様に圧倒された。私などは韓国や北朝鮮の言動に折々怒りを覚え、ついつい侮蔑の念を持つこともある。しかし、それはお隣の国の一部であり決して正確に実相を表してはいないことに心すべきだろう。浅川巧氏の祖父の言葉を改めてかみしめたい。「人間の仕事には貴賤などない。人種などというものにも上下はない。人の価値はな、どう生きたか、にあって地位や金銭ではどうにもならん。働いて、本を読んで、自然を大事にする。それだけのことだ」 至言と云うべきだろう。 2012/11/25
seacalf
50
浅川巧。植民地下の朝鮮で白磁を代表とする民族文化の美を見いだし、朝鮮の人々を愛し、朝鮮の人々からも愛された一人の日本人林業技手がいた。ソウル郊外にある彼の墓は今でも韓国の人々に守られているという。文芸雑誌『白樺』の創刊メンバーである思想家の柳宗悦や、漱石の門下生で文部大臣にもなった安部能成などを魅了した。日韓の不仲に違和感を感じたのが読むきっかけだったが、彼のボーダーレスで温かな人柄はそれすら超越する。こんな日本人がいたのかと爽やかな気持ちになる。心が伸びやかになる至言も多数。おすすめの一冊。義父に感謝。2020/02/06
どらがあんこ
10
数年前、浅川巧が眠る共同墓地へ訪れた。思ったよりも山の中で驚いたが、この本を読むとあの山を浅川巧は愛したのだなとしっくり来た。電車で日本人であると名乗らなかったシーンが印象的だった。2018/12/19