内容説明
小説の読み方・書き方・楽しみ方がわかる。「断筆」の理由はここでしか読めない。筒井流「感情移入批評」を実践して小説をていねいに読み解き、読んで楽しい、文学がわかる、筒井康隆が放つ、最初で最後の文芸時評。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
26
☆☆☆★ ほんの一時期の文芸誌に掲載された作品の文芸時評。玉石混淆の中、筒井康隆らしい視点で時評を展開している。もっと彼の文芸時評を読みたいが、年齢も年齢だし、作品に注力してもらうためにも、欲張らない方が良いか。気になったのは、竹野雅人「私の自叙伝前編」森内俊雄「桜桃」小島信夫「殺祖」村上政彦「東京民話集」小檜山博「パラオレノン」吉田知子「艮(うしとら)」「常寒山」光岡明「行ったり来たり」。2022/03/04
白義
20
何より目を引くのは癲癇協会の抗議とそのいざこざを受けての断筆宣言についての自己解説が乗っていることだが、そうしたスキャンダル要素よりまずは各作品を読み解く読み巧者ぶりを評価するべきだろう。筒井康隆の小説を知っていれば分かる通り極めて彼は方法論、方法意識といった技巧に自覚的な作家であり従って作家としての立場を生かした「感情移入」とは単に作者にだけ、物語にだけというのではなく、そこに張り巡らされた技巧や構成全てに感情移入し、それを明らかにする全面的感情移入、分析的感情移入とでも言うやり方で極めて参考になるもの2016/10/22
hirayama46
10
「文藝」誌に連載された文芸時評をまとめた一冊。連載時期がちょうど断筆宣言と重なっているので、全四回で終了、しかも四回目は件の断筆について紙数を割いているので、ちょっと物足りなさは残ります。しかし、読み手としての技術的な解析はさすがでありました。「読み巧者ぶりをひけらかしている」という評を褒め言葉として受け取るだけの自負があるのでしょう。/1993年の作家さん、やはり表舞台で見かけなってしまった方も多いようですね。さみしいことです。2019/12/06
やいとや
2
気忙しく追い立てるような文体に背中を小突き回されるような心地で一気に読了したが、解説の「時評はスピードだ」「この本にはスピードがある」という件にハタと膝を打つ。解説の文体模写芸に最も心打たれるとは如何なもんか、と個人的に苦笑してしまうが、断筆宣言の件も渡部直己とのチクチクした厭らしい喧嘩も他所で散々読んでしまったので、どうも食いつきが悪かった。時評の体を取りながら、自身の創作の技法やアイディアを惜し気もなく開陳する手法は流石実作者の時評であり、最も筒井作品で近いのは『着想の技術』かもな、と思ったり。2019/06/18
Weapon
2
図書館から。"感情移入批評"について読みたくて借りた。文庫版ではなく単行本。 読んでいるともっと小説を読みたくなってくるし、それと同じくらい小説を書きたくなってくる。きっと自分の専門や、読んできた本から受けた影響から、自分のオリジナリティのある小説が書けるのではないかと。さらに、小説の編集担当もできるんじゃないかと想像が膨らむ。 もし小説家を目指すなら、自分に足りないのは、アイデアではなく、才能でもなく、技術でもなく、時間でもなく、度胸なのだろう。そんな自信が湧いてくる。 2018/04/05