内容説明
波のごとき運命に左右されながら、欧米の知識を求め、波濤をこえて様々な人々が明治を行き交う。―復讐をねらう咸臨丸の元乗員とその弟の奇妙な運命。パリ視察中の川路利良、成島柳北、井上毅とゴーギャン、ヴェルレーヌらの前で起こる元芸者の殺人事件。南方熊楠と自由民権運動に燃える北村透谷らの青春物語。虚と実の狭間の真実を描く風太郎の傑作明治伝奇。
感想・レビュー
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さっと
8
上巻は「それからの咸臨丸」「巴里に雪のふるごとく」「風の中の蝶」の3編。『警視庁草紙』『幻燈辻馬車』と同じく明治期の短編集だが、連作短編でラスト長編的な物語に変貌するふたつとは異なり、こちらはそれぞれが独立した物語で「海を渡った人たち」が共通項となる。歴史上の人物が自由自在に交錯する山風テイストはここでも健在ながら、「巴里に~」は異国の同時代人をも巻き込んだ展開に驚き。咸臨丸での渡米経験がありながら古き良き士道に殉じる旧幕臣・吉岡艮太夫や、自由党にかぶれた若き日の北村透谷らの蹉跌と後日談は切ない。2022/04/30