内容説明
熊野の山々の迫る紀州南端の地を舞台に、高貴で不吉な血の宿命を分つ若者たち―色事師、荒くれ、夜盗、ヤクザら―の生と死を、神話的世界を通して過去・現在・未来に自在にうつし出し、新しい物語文学の誕生と謳われる名作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
380
6つの作品から構成される連作短篇集。強靭なまでの地縁と血縁の物語である。後半ではブエノスアイレスや北海道へと空間的な展開を見せるようでもあるが、物語のトポスは熊野の、しかもさらに狭い路地を基点にしたままである。物語はオリュウノオバアを核として、中本一族の男たちのそれぞれの一代記が語られる。いずれの男たちも濃密な生を生き、そしていとも儚くその生を終えてしまう。しかし、そこには息詰まるくらいに生と性のエネルギーが充満し、汗と血と精液の匂いが立ち込めている。読んでいて息苦しくなるほどに。2022/04/21
ミカママ
296
なんて泥臭い、なんて艶めかしい。そこには倫理も常識もない世界。男と女、人と人との原点。読みにくいといえば、これほど読みにくい文章もないだろう。読点がダラダラと続き、ページには余白がない。決して文章の上手な作家さんではないと思うが、そこには読者を虜にする何かがある。吉本隆明さんのあとがきも贅沢。2017/05/14
こばまり
65
どうしよう、途方もなく好きで感想がうまく纏まりません。なんと美しく淫らで残酷な物語であることか。暫くはこの文庫本を鞄に忍ばせたまま日々を過ごすことでしょう。2015/10/04
syaori
61
「千年も前から」この世にあるように思うオリュウノオバが観るのは、「生命があぶくのようにふつふつと沸いている」世界。語るのは、その沸いた滴がはねるように生命の海から跳ね上がり堕ちてゆく中本の男たちの物語。女を慰むことに加え、盗みや殺人をも躊躇しない彼らの物語は、同時に天女や蓮や銀に彩られてどこか儚い夢のよう。それは、彼らの業を、悪行を、苦悩を語るオリュウノオバが彼らを「あわれ」に思うから。その声が、思いが彼らの懊悩と、法悦の「あわい」を「ぬい合わせ」、一瞬の、永遠の愉楽の地を見せているように思いました。2019/10/25
優希
58
過剰な言葉の羅列の中で高貴で不吉な血を描いています。過激ながらも神話的世界を通じ、過去・現在・未来を自由に映し出しているのが凄いと思いました。2023/06/11