出版社内容情報
世界的に活躍する劇作家の代表的小説。妻を惨殺された主人公の犯人捜しの旅はまたレバノンでの幼少期の恐るべき秘密へ向かっていた。
内容説明
ある日突然妻が惨殺された。犯人を追って、男はカナダ先住民居留地へと向かう。たくさんの生き物たちに見守られたその旅路はまた幼少期の戦争と虐殺の記憶に向かうものだった―レバノン内戦によって祖国と母語を同時に失った著者が、アイデンティティを奪われる悲しみをサスペンスフルに描き出す。フランス作家協会ティード・モニエ大賞受賞作。世界的劇作家であり映画『灼熱の魂』原作者が放つ衝撃の長編小説!
著者等紹介
ムアワッド,ワジディ[ムアワッド,ワジディ] [Mouawad,Wajdi]
1968年、レバノンのベイルート近郊に生まれる。内戦の激化に伴い8歳で家族とフランスに亡命、その後カナダに移住。カナダ国立演劇学校在学中から劇作の才能を発揮し、劇作家・演出家・俳優として活躍する。ベルギー批評家賞、アカデミー・フランセーズ演劇大賞など数々の賞を受賞し、2002年にはフランス芸術文化勲章シュヴァリエを受ける。戯曲創作の一方で、2002年に小説第一作『取り戻した顔』を発表。2012年発表の『アニマ』はフランス作家協会ティード・モニエ大賞、地中海賞ほか受賞多数。2016年よりフランスのコリーヌ国立劇場芸術監督(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アナーキー靴下
90
凄い作品に出会ってしまった。妻の惨殺死体から始まる物語は、終始理不尽な凄惨さに満ちているのに、気付けばじっくりのめり込むように読んでいた。主人公を取り巻く動物たちにより語られるという特異な手法は、離人症的な一人称にも思えてくる。他者を想像することは、他者の目を通した自己を想像することと同義であるなら、動物たちの眼差しの優しさは何故こんなにも胸に迫るのか。動物への没入は命の力強さも感じさせる。捕食者が獲物を喰らうとき、二者の間にあるのは運命的な結合、それは残酷さと官能を内包した、交尾を凌駕する生命の達成。2021/08/14
榊原 香織
69
破壊的パワーを持った小説。 ただ、かなりグロくて凶暴なので要注意。 猟奇的殺人から現代史の闇に。様々な動物が物語を綴っていく。 インディアンの英知、でもこの場合はちょっと問題あり。 本来レバノン人の作者 舞台はカナダ、アメリカ ハードボイルドというよりは文学2022/07/22
ヘラジカ
52
妻を惨殺された男の探求と彷徨。素人目にもオデュッセイアが下敷きだと分かる壮大なストーリーライン、あらゆる動物たちの視点から俯瞰される神話的な語りに度肝を抜かれた。独創的であるだけでなく、カナダが抱える人種間の軋轢や、被害者と加害者の両義性など、込められたテーマも多層的で複雑だ。しかし、だからといって難解で退屈するわけではない。アメリカ映画のような動的な物語にも夢中になった。風変わりなだけでなく非常に強力な筆致。比類なき小説である。2021/04/05
Sam
45
著者はレバノン出身の劇作家、内戦で祖国を追われフランス、その後カナダに移住した経歴の持ち主とのこと(原書は英語、フランス語、アラビア語が混在している)。妻を虐殺された主人公が犯人を探す旅に出る物語ーといってもミステリーでは全くない。動物や昆虫の視点で語られる語り口はとても斬新だが、主題は失われた自らの出自や歴史を探し求めて主人公がどこまでも彷徨する物語であり、やがてたどり着く真相はとてつもなく重い。劇作家らしく緊密な構成で緩みなく最後まで読ませるのは間違いないが、正直なところ心底グッタリしました。2021/08/07
空猫
38
読み始めて、語り手が誰なのか分からず混乱。帰宅すると妻が酷い殺され方をされ、犯人を夫が独自で追う。節題が全て生物名でその視点と気付く…ネコ、イヌ、カラス、クモ…。舞台はカナダ(国境付近)。追跡はアメリカをほぼ横断するスケールの大きさ。先住民との歴史と夫の出自がとても複雑。三章以降はガラリと転じ再度混乱。犯罪小説ではなかった。映画『灼熱の魂』の原作(脚本)者だそうで妙に納得した。物語性というより描写(映像)のインパクトを重視する点が特徴なのかな。ともかくその熱量に圧倒された。2021/10/02