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内容説明
子どもが服を脱ぐのを初めて見た時、ナミは思わず声をあげる。喉元に三本目の手があった。あるのは手のひらと手首だけで、他の二本の手と別々に動き、五本の指は、ブリキ缶の中のミミズのようにうごめいていた。世界17カ国で翻訳。マグネジア・リテラ賞、EU文学賞。チェコ新世代女性作家による現代の黙示録。
著者等紹介
ベロヴァー,ビアンカ[ベロヴァー,ビアンカ] [Bellov´a,Bianca]
1970年プラハ生まれ。プラハ経済大学卒業後、英語の翻訳家・通訳として活動しながら、執筆にも従事。2009年『感傷的な小説(Sentiment´aln´i rom´an)』で作家デビュー。16年『湖(Jezero)』を発表し、17年、同作でマグネジア・リテラ賞(今年の一冊)、EU文学賞を受賞
阿部賢一[アベケンイチ]
1972年、東京都生まれ。東京外国語大学、カレル大学、パリ第4大学に学ぶ。東京大学准教授。オウジェドニーク『エウロペアナ』(共訳、第一回日本翻訳大賞受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
136
チェコの作家によるハードボイルドな純文学(私見) ソ連の力、開発による公害、自然破壊。ムラの慣習、自然への畏怖、若い娘の貞操、世間体、民族問題。家族への憧憬。人としての真価。そして、何より1人の男の子の青年への成長。200頁ほどの中に、そんな全てが過不足なく描かれる。中央の権力は、巨大で、変容しながら色んなものを呑み込む。しかし、逃げず誤魔化さず、正面から受けとめる者にある頑としたしたたかさ。ザザや、老マダムやシャフナスの父のように。ニキティッチの踏ん張りと 島で迎える動物達には、希望だけが見えた。 2019/04/26
旅するランナー
105
チェコ女性作家による、少年の悲惨な冒険・成長譚。ロシア軍が我が物顔で統治し、水が干上がり汚染されていく湖のある国での、母を探す旅。英雄よりも馬鹿者の方が評価される奇妙な時代、湖の精霊が潜む不思議世界に読者も放り込まれ、狂ったような夢を見せられます。宮部みゆきや湊かなえの闇が真っ昼間に思えるくらいの、真っ暗闇などす黒さに覆われ、胸を締め付けられます。でも、わずかな希望も感じ取られ、黒いライ麦畑でつかまえてっていう趣きがあります。2019/08/04
藤月はな(灯れ松明の火)
82
生贄が捧げられていた湖は汚染されていた。その近くに住み、家族を喪ったナミは過酷な道を歩むことになる。女子供であっても容赦はしない暴力と蔑み、搾取、そして世の不条理が淡々と描かれる。「売女」と蔑まれていた母の真実も覆されてしまう。逃げた筈がまた、自分のぼんやりとした意思で元の所に戻ってしまう事は、生きている中でも付いて回る事だ。そして自分を虐待していた農場主や虐めを指示する事でクラスの調和を保っていた女教師に再会した時に彼らが怯むような態度になったのは、彼らの老いとナミの成長の対比を冷え冷えと象徴していた。2019/06/16
あさうみ
48
表紙がなんとも不気味で一度見たら忘れられず書店で呪われたかのように手にとった一冊(笑)内容も暗澹たる雰囲気、ずぶずぶと湖に沈められていく。現実であり幻想の間、ディストピア的な作風。少し煮え切らない読み終わり感が玉にキズ。でも読者に今後の解釈を委ねる作者の意図かな。2019/06/27
星落秋風五丈原
41
ソ連支配下にある特定されない国に住む少年の成長譚。祖父がいなくなり足を怪我した祖母も湖に送られる。海外版姨捨山?一度外に出てはみるがやはり戻ってくる少年ナミ。表紙絵が不気味ですね。顔がないのは主人公を特定せず皆の問題として考えて欲しいから?2019/06/02