内容説明
パリの会社社長ノルベール・モンド氏は、市の中心部に社を構え、バリュ通りに豪華な邸宅をもち、妻と二人の子供にも恵まれて一見全てが順調に見える。しかし、その実、現在の妻は彼のことを理解せず、二人の子供はあらゆることで彼にもたれかかっている。４８歳の誕生日の晩、モンド氏は会社も家族も富も捨て、名前と外観を変えて、夜汽車で南仏に逃亡する。自殺を図った女との同棲、賭博と麻薬と売春がうごめく秘密クラブ、悲惨な状況にある最初の妻との邂逅…モンド氏は望むものを手に入れられるのか。
著者等紹介
シムノン，ジョルジュ［シムノン，ジョルジュ］［Ｓｉｍｅｎｏｎ，Ｇｅｏｒｇｅｓ］
１９０３‐１９８９。フランスの小説家。ベルギーのリエージュの貧しい家庭に生まれる。十五歳で学校をやめ、菓子屋、本屋などに勤めた後に十六歳で地方紙の記者になり、十七歳で処女作『めがね橋で』を発表して作家デビュー。二十七歳で発表した『怪盗レトン』からはじまる“メグレ警視シリーズ”は八十四篇を数え、各国語に翻訳されて世界的な名声を博す
長島良三［ナガシマリョウゾウ］
フランス文学翻訳家。１９３６年東京生まれ。明治大学文学部仏文科卒業。早川書房編集部を経て翻訳家に（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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kthyk
19
「本当のパリっ子とは、別の土地で生まれパリで生きるのが征服であるかのような人間を言う」と「パリはわが町」のロジェ・グルニエは書いている。メグレを書くシムノンもまたベルギー人。今回はレ・アール付近に会社を持ち、高級住宅地に住まうモンド氏、４８歳の社長の家出の物語だ。しかし、舞台はパリではなく、マルセイユとニース。全てを放棄し戦うことをやめたモンド氏は広大な海と朝日を浴びる数百と言う赤い屋根を眺める。メグレ・シリーズよりシムノンの本格小説を高く評価するアンドレ・ジイド。確かにこの小説どこまでも優しいパリっ子。2023/02/02
bapaksejahtera
15
シムノンを随分読んだが、非メグレの本作に対すると、シムノン作品をこの訳者でしか読めないのは悲劇であると改めて思う。メグレ物なら見過ごすような不満が際立ってしまうのだ。例証は挙げられないが意味のつじぬ文章が気になる。48歳の誕生日に当たりパリの成功した実業家であるモンド氏は妻や子供を振りて突然の逃避行に及ぶ。恋愛を伴わぬ女性との邂逅を経て南仏のホテルの屋根裏部屋に住み、実は賭博場を併設するダンスホールの物品管理の仕事につく。彼は麻薬で破綻した前妻を見出す。中年からの生まれ変わりとしてはやや弱いが満足の作品。2023/08/28
セレーナ
4
アガサの「春にして君を離れ」を思う人の心の触れ合わなさ。結局人は自分が思うように感じ、人を見る。それが自分にとって不幸になっても、間違っていてもだ。 抑えつけていた衝動にかられ電車で遠くの街にいき、風貌を代えて別人になって暮らしてみても何も変わらない。変わった一面は他人に期待しない自分にも期待しなくなったことだけだろう。2018/12/16
ケニオミ
2
多少の問題を抱えていても、周りが羨むような地位を得ているモンド氏。そのモンド氏がさしたる理由もなく失踪してしまいます。本書は彼の３ヵ月余りの現実からの遁走とその後の帰還を描いています。失踪中、通常遭遇しないであろう事件や前妻との邂逅、また社会下層の人々との交流があり、それらを通して現実を見直し、彼自身の生活も見直す。まあ、よくあるストーリーで何の面白味もありませんでした。本書は著者シムノン氏の「本格小説」となっていますが、彼にとっての本格小説でも、読者にとっての本格小説ではないようです。辛口で済みません。2012/02/02
onisjim
2
以前読んだ『ブーベ氏の埋葬』にくらべると今ひとつかな。それは多分、主人公が失踪を経て（どこか以前とは違うものの）元の生活に戻っていく最後にちょっとがっかりしたからだろう。それでも刺されたり撃たれたりして人が死ぬわけではないのに、何となくノワールだなと思わせる雰囲気はいい。2011/10/31
