内容説明
目が覚めたら、私は南極にいた。―病院の地下で発掘されたスコット探検隊の生存者による手記。妄想と幻覚の作り話か、それとも―。
著者等紹介
ロック,ノーマン[ロック,ノーマン][Lock,Norman]
作家・劇作家。1988年に上演された『過ちを正す家』で高い評価を受ける
柴田元幸[シバタモトユキ]
1954年東京生まれ。東京大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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tomo*tin
24
表紙を捲るとそこは南極で、私は自分の魂のようなものまでもが凍る感覚に陥った。それは決して寒さのせいではなく、そこにある壮絶に美しい幻想で彩られた風景と狂気のような絶望に心が乗っ取られたからだ。私にはこの物語自体が暗喩であり詩であり死でもあり語られぬ生でもあるように思えてならない。もはや「本当の著者」が誰かなどとは瑣末なこと。瞼の裏に浮かぶ鮮烈な色彩が私を幻惑の旅へと誘い、私はそこで物語を見た。それでいい、気がする。大好きです。2009/04/18
愛玉子
23
「スコット探検隊の一員として南極点を目指した」という妄想に蝕まれた男の手記、ということになっている。影すら凍る寒さ、執拗で冷淡な雪に閉ざされた地で、極限状態の隊員たちが幻視する美しいもの。幻想と現実が交錯する、いやこれは妄想だから現実のはずはないのだ、それとも妄想ではなかったのか?静かに狂い崩壊していく理性を雪が覆い尽くす。「出られてよかったな、と自分自身に言いながら、そうなのだろうか、と私は自問していた。」あるいはとどまるべきだったのかもしれない、地獄さえも凍る地、どこにも実在しないこの牢獄に。2018/12/22
乙郎さん
20
時折、狂人というのは実は誰よりもマトモで、本当はわれわれの目に見えていない(けど確かにそこにある)物を見ているだけなんじゃないかという気がしてくる。オブライエンの「金剛石のレンズ」を何故か思い出した。文章的な整合性はないし、理解もできないのだけれど、折を見て読み返したい。2009/04/22
星落秋風五丈原
19
スコットの墓碑を作りに行ったはずの男がなぜか死んだはずのスコットと会話している。スコットの狭量な所が見える。2018/02/07
ゆき
19
南極まで地理的に、一年前まで時間的にぶっとんじゃうわけだから、フィクションなんだけれども、軽くならないための仕掛けがいたるところに散りばめられていておもしろいです。あとがきのエピソードとか、訳者もしっかり加担してるし、表紙とか装丁とかも含めて。現実と幻想の境界が曖昧になり、希薄なんだけれども濃厚な雰囲気、混じりあって、ねじくれていく感覚がすごいです。狂っていく人を見ているけど、狂ってるのは自分?ってな感じのよくわからん感覚で、ぐるぐるです。おもしろい小説って、どれだけ真剣に嘘をつけるか、だと思いました。2009/08/25